あぁ、なんていい天気なんだろう。
 汗を拭う仕草をわざとらしくして、にっこりスザクは微笑んだ。
 C.C.も笑い、ジェレミアも笑う。心なしか、咲世子も楽しそうだ。
 にこにこしているロイドの隣では、変わらずにセシルが微笑んでいる。
 ただ一人、ルルーシュだけが青い顔をしていた。
「って、本当に旅行に出てどうする!!」
 日除けにと買われた帽子を叩きつけようとして、倹約家魂が炸裂。地団太を踏むに留まるが、それは可愛らしい行動にしか映らなかったのかジェレミアを除く全員が胸をきゅんとさせた。
 ジェレミアは、心をときめかせるだけではなくハッキリ「そんな態度も素晴らしいです!」と言い切ってしまっている。
 なんというか、駄目な大人の見本がそこにいた。
「どうするんだ今後の世界!!」
「えー、しらなーい」
「C.C.」
「私が知るわけないだろう」
「ロイド! セシル!!」
「僕らに言われたって、ねぇ?」
「そうですよねぇ、私たちはただの技術屋ですし」
「咲世子! ジェレミア!!」
「わたくし、あくまで忍なメイドですから」
「このジェレミア・ゴッドバルト、我が君の進まれる道がわが道と誓っておりますれば!!」
 これだけ人間がいるのに、味方が一人もいない状況にルルーシュは内心で滂沱の涙を流した。
 ぎりぎり歯噛みをしながら、ルルーシュは先日の録画放送をワンセグでもう一度再生していた。
 報道系ワイドショーのタイトルは、『今明かされるゼロの真実。彼にもっとも近かった女達が明かす素顔!』という、なんというか非常に二流くさいタイトルだったが、その実中身は重かった。
 流石、看板キャスターのミレイが企画書から練り上げただけはある。
 指をさして笑おうとチャンネルを合わせた者達は内容に取り込まれ、所詮ワイドショー程度のものだろうと軽んじた政府中枢の者は玉置からの連絡がいくまで放置した結果とんでもない量の問い合わせに相対することになった。
「C.C.、おまえよくも……」
「私は出演を依頼され、承諾しただけだ。その時点では、まだお前と合流をしていなかった。文句を言われる筋合いは無い」
「ピザ何枚で買収された!」
「ふん、私がそんな安い女に見えるか?」
「見えるから言ってるんだ」
「ほぉ……? 言ってくれるじゃないか、女を買ったこともない童貞坊やが」
 きらんと光る女の瞳は、文字通り狩猟民族のそれだった。
 一歩、じり。と仰け反るルルーシュの喉元を、C.C.の細い指先がつぅっ……となぞりあげる。
 ひぁやっ?! なんとも、可愛そうかつ可愛らしい声に、また全員の胸がきゅんと高まった。
 あまりいじめすぎるのは問題だと知っているため、彼女は不敵な笑みを口元に宿した。
「ピザ屋一件だ。アッシュフォードの財力は素晴らしいな」
「なんだと?!」
「私がその店のオーナーだ。つまりはピザが食い放題。系列店なら、その店に清算を回して良いという破格の待遇。これは受けるに値する。そうだろう?」
「なら、この間の買い食いはなんだ! 俺が支払ったあのピザ代は!!」
「あれは系列が違う。第一、新商品を開発させてはいるが、同じピザばかりではこのグルメな舌が泣くというもの」
「なにがグルメだ! ジャンクフードばかり食べているピザ女のくせに!!」
「おいルルーシュ。言葉には注意しろ。それは太った女に対する蔑称だ。私の! どこを見て! 太っているなどと言うつもりだ?!」
 悪びれもせずに言う女は、どこからどう見ても魔女だった。
 拘束服で無くなろうがなんだろうが、女は魔女だった。
 魔女というか、悪女だ。
「まぁまぁ陛下。あの番組のおかげで、こっちに対する注目ほっとんど無くなったんですからいいじゃないですかぁ!」
「そうだよ。事実関係の書類とか、謀殺の物的証拠とか、ゼロ暗殺の状況証拠とか、念のために書類にまとめておいて良かったね。備えあれば憂いなしって、いい言葉だなぁ」
「蜃気楼のチェックの時に、色々データ吸い出すこと出来ましたしね。短い間でしたけど、捕まった時にちょっとは紅蓮に触らせて貰えた際、扇首相やディートハルトさんの通信記録も無事にゲット出来ましたし」
「ちょっとお前ら黙っていろ!!」
 あああああ、と頭を抱える青年に、あれー? と顔を見合す元特派三人。
 何故怒られるのかわからない、といわんばかりの彼らに、頭痛はひどくなるばかりである。
「陛下、人の所業というものは廻るものだという説法も、このニッポンにはあります。どうぞお気遣いなさいませんよう……」
「しかしだな、ジェレミア……」
「ルルーシュ様。なんでしたら、その後扇首相が各国首脳陣に対し行った荒唐無稽なギアス説明の映像資料などもありますが。如何なさいますか?」
 これを全国に流せば、超能力なんてモンを未だに大真面目に信じているイタイ人。のレッテルが貼れますよ。支持率だだ落ちです。
 あくまで淡々と言ってくるメイドに、思わず目が半眼になる。
 普通、そういった資料は極秘なはずだ。一体、どこから手に入れたというのだろう。
 思えば、にっこりと彼女は微笑んで。
「ルルーシュ様にお仕えするメイドたるもの、このくらい出来なくてどうします」
 なんか違う作品が紛れ込んだ発言を、さらっとかました。
 もっとも、ジェレミアやC.C.は頻りに感心しているが。
「南の海で避暑してたし、次はどこ行くー?」
「ニッポンのサクラが見れないのは、ちょおっと残念かなぁ」
「私はピザ屋があれば、どこでもかまわない」
「ルルーシュ様、お荷物を此方に」
「よろしければ、次は山のほうへは如何です? 春の山菜も、美味しいですよ。野草でしたら、わたくし少しばかり心得が御座いますが」
「まぁ! いいですね、私も腕をふるって……」
「すいませんごめんなさぁい僕が謝るからそれはやめてぇ!!」
「どうしてですかぁっ!!」
 言い合いながら、彼らは進んでいく。
 はーっと肩から息を吐いて、ルルーシュは小走りに駆けていった。
「俺を置いていくな!!」



***
 いくら真実だとしても、ギアスなんてもんの存在を熱弁する首相は嫌だ。



その後の面倒なにそれおいしいの?




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