もっと二人で、話が出来たら良かったのだと。今なら思える。 それは今なら思えることで、あの時は余裕がなかた。 余裕がないというのは本当にひどいことで、いくらでも事態を悪化させることが出来る。 どこまで転げ落ちていいものか、あの頃はわからなかった。 どこまで転げ落ちていくのかわからず、不安でたまらなかった。 引き上げてくれた慈愛の手を、スザクは今でも感謝している。 彼女がいなければ自分はもっと惨めな心を抱えていただろうと、今でも思っている。 もっと二人で、話すことが出来たら良かったと。 無意味とわかっていながら、後悔は胸にあった。 自分のために父親を刺し殺したのだと、認められたなら。 二人のために父親を刺し殺したのだと、言ってしまえたなら。 汚い自分を、認めてくれとみっともなくあがけたなら。 世界は、どう変わっていただろう。 なにも変わらないかもしれないけれど、少なくとも、幼馴染は傍にいてくれたかもしれない。 傍らへ手を伸ばす。 あっさり、空を切った。 「如何なさいましたか、ゼロ様」 かけられた言葉へ、首を横にする。咲世子は有能なメイドで、秘書だ。 ゼロの私室に入れる人間は、ひどく限られている。 彼女と、ナナリー。二人が常時入って来られ、時折訪問するジェレミアやC.C.は応接間にではなく此方に通される。 科学者二人は、滅多に皇宮へはやって来ない。 クリスマスや新年に、カードが贈られてくる程度だ。 「いいや」 首を横にして、書類に向き合う。 いつまで経ったって、デスクワークは慣れないばかりだ。 准尉から少佐に昇格した際は、まだロイド達が上官というポジションでいてくれたから報告書程度で済んでいたがナイト・オブ・ラウンズに就任してからはそれも出来なくなった。 上の人間にルルーシュのようなタイプが多いことを、うっすら理解し始めたのもあの時期のはずだ。 書類と向き合い続けていたら、頭の中も数字まみれになるに違いない。 「咲世子、お茶の用意をかまわないか」 「かしこまりました。なにかリクエストは?」 「たまには、煎茶でも飲みたい。かな」 「……あるでしょうか」 仮にも国家の中枢である。 使用人たちも皆それなりにプライドが高い。 使用人のプライベート空間なら兎も角、職場にそんなものがおいてあるだろうか。 首を傾ける彼女へ、冗談だと小さく笑った。 「今なら、わかることが多い」 「……左様で」 「あぁ」 防犯と、ゼロの正体を他者へ知らせるわけにはいかないという警戒上、窓は嵌め殺しになっている。 マジックミラーのため庭園を眺めることは出来るが、外からはわからない。 多少の息苦しさにも慣れた首元を、そっとスザクは撫ぜた。 「良い、お天気ですわね」 「まったくだ」 多分あの頃の自分たちは、その美しささえ意識する余裕がなかった。 *** 年月を経てわかること。年月を経て失うこと。年月を経て得るもの。 |