最早それしか望まないから




 生きていて、死なないで。
 他のことなんて、もういいから。
 生きていて、死なないで。
 願うのはもうそんなことばかり。

 潮騒は山のさざめきに似ていた。
 薄暗い意識を払い、視界一杯の青い空が映る。
「………嗚呼」
 声音が漏れた。
 白い砂が、髪の中にまで入って気持ち悪い。
 起き上がればざらざらと落ち、髪の中に手を入れて少し乱すだけで更に落ちていった。
 気持ち悪いのは、他に海水を浴びたせいでもあるらしい。
 砂も水も、服も。
 張り付く感触がひどく厭わしい。
 嗚呼。
 もう一度声音が漏れた。
 卑怯な手を使った覚えは、充分にある。
 それでも殺したくなかった。
 彼は、幼馴染であり、気の置けない友であり、親友であり。
 なにより大切にしたい、人だった。
 最愛の妹とは、また別のベクトルで。
 彼が大切だった。
 裏切られたと、思うことは生憎ルルーシュにはなかった。
 相手に心配をかけないように、お互いが気を張り巡らせ神経を遣い、正体を隠し続けてきたのだ。
 自分も隠すものがある以上、それは裏切りにはならない。
 とはいえ、第三皇女を選ぶのかという。
 悲しみを纏う衝撃は、与えられたけれども。
 軍人だから、命令を聞くのか。
 軍人だから、命を投げ出すのか。
 お前の意思は? お前の願いは?
 命令の一言で、投げ出せてしまうほど、俺たちという平穏は価値がなかった?
 ゼロを殺せれば、もうあの穏やかな日常に帰らなくても良いだなんて、思っていた?
 なんでそんな、風に。
「スザク」
 生きて。
 頼むから生きてくれ。
 自身のために。
 どうかどうか生きてくれ。
 死なないでくれ。
 羽ばたかせた、赤い鳥。
 命令の形をとった、何よりの願いの形。
 生きて生きて。
 御願いだから生きてくれ。
 もう、スザクにギアスは効かない。
 けれどこれが、本心からの願いだ。
 そんなに仲間になりたくないのなら、もういいから。
 だから、生きていて生きていて頼むからお願いだから。
 ルルーシュという人間から、失わせないでくれ、もう二度と誰も。
 青い空の下で祈りは形にならず、霧散していく。



***
 19話直前です。
 捏造捏造書けるうちに書いておこう、と。
 ネタバレは怖くて見れません。後で感想サイト様飛び回りたいと思います。
 嗚呼あと3時間……!(現在3/2 23:00





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