思いついたように、ぽん。とナナリーが手を打った。 微笑ながらのそれだが、スザクは仮面の下で露骨に顔を歪める。彼女がこんな思いつきの態度を取る時は、たいてい碌でもないことなのだといい加減彼も学習していた。 だからといって、逃れる術など知らないが。 ほぼ惰性で、彼は嘆息をつきつつどうかしたのか問いかけた。 少女は花のような笑顔で、両手をパーの形にして顔の傍へ持ってくる。 それだけ見ていれば一見無邪気な少女の無邪気な動作だが、彼女がそんな頭の軽いことをするはずがない。 さぁ、唇の先から出てくる毒はなんだとスザクは身構えた。 「あなたと私とお兄様の、共通点を見つけたんです」 「君と、私と、悪逆皇帝の?」 「はい!」 にこやかな笑みに、ますます混迷を深めるしかない。 自分と、彼と、彼女の共通点。 ギアスや世界の真実、などというわけではないのだろう。 そんなもの、改めて言う必要は無い。 ではなんだというのか。知らず、眉間へ皺が寄る。ナナリーは、くすくすと楽しそうだ。 「ヒントはいりますか?」 優しく首を傾ける少女へ、男は首を横にした。 仮にヒントを与えられたところで、それはとても難解なヒントに違いない。 しかし、その様子に少しばかりナナリーは不服そうな表情である。 どんな問題も、自力で解答へ辿り着かなければならないという主義は兄も妹も共通なようだった。 「もう。駄目ですよ、ちゃんと考えていただかないと」 「そうしたいのはやまやまだが、あと十五分で私も君も会談があるだろう」 「国内総生産についてでしたね」 会議に遅れてしまうのは本意ではありませんが、仕方ありません。 心底惜しいような表情で、彼女は手をパーにしたまま笑った。 「私と、あなたと、お兄様の共通点。私たちは、ひとごろしです」 ちょっとしたものですよ。私たちが殺した量は。 花のように、少女皇帝は笑って手を胸の前で組んだ。 思わずのように、スザクの息が呑まれる。気にすることもなく、ナナリーはそっと目を伏せた。 「お兄様と私がトントンといったところでしょうか。あなたは……、数万は殺してはいないと思いますが」 それでも、カレンさん達なんかよりはずっと多くを殺していらっしゃるのでしょうね。 責めるでもない口調に、漏れたのは失笑だった。 その通りなのだから、いまさら言い繕えるはずも無い。 「三人とも、血まみれの手か」 「はい。洗ってもきっと取れませんわ」 洗い流すには、殺した人の数が多すぎる。 洗い流すには、殺した反省が無さ過ぎる。 だから、きっと血まみれのまま。一生、真っ赤のままなんです。 ミルクティ色の髪を、ふわりと揺らしてナナリーは笑った。 「お兄様はギアスと悪逆皇帝の名のもとに。私は、フレイヤで。あなたは、あなたの手で」 未だ十代の私たちが、殺すにはちょっと多すぎる血の量ですね。 言われれば、確かにとうなずくしかない。 「それでも、わかっているのか。ナナリー陛下。その椅子は、更なる流血を呼ぶ」 政治はきれいごとでは到底回らない。 いつか切り捨てなければならないことが、必ず出てくる。 そうなった時、切り捨てられた側では絶対に死者が現れるだろう。 直接手を下さずとも、それとて殺した中にカウントされていく。誰も数えずとも、自分が数える。 低く問いかければ、花の皇帝と称される笑みそのままでナナリーはあまりに当然に頷いた。 「今更、ですわ」 「改善って言葉も、あるよ。ナナリー」 「私ばかり善い方向へ転がってしまったら、世界が大変でしょう?」 嘯けば、あっさり返される。 「この手はもう真っ赤です。でも、お兄様とスザクさんとおそろいなら、きっと私は笑っていられます」 一生汚れていましょう? 誘いかける白い手に、スザクは笑ってそっと手を重ねた。 あまりに少ない共通点に縋る愚かさに、二人は揃って笑った。 *** 気がつけばどいつもこいつも人殺し。でもそれさえ、笑ってみせようと。 |