あれは、あの感情は、なんだったのだろうと。 今際の際にして、C.C.は思う。 笑顔が好きだ。やさしい男だと思う。 白い指先が好きだ。黒い髪が好きだ。紫の瞳が好きだ。 好きだと、彼女は強く思った。 けれどこれが恋だとは、彼女には到底思えなかった。 「C.C.」 少し下がった声で呼ばれても、彼女はもう笑うしか出来ない。 コードの継承からすぐ、彼女は死を選んだわけではなかった。 それをするには、世界は美しすぎた。 返事をする代わりに、かつて魔女と石投げられた彼女はそっと指先を差し出した。 すぐに包まれる手。温度は低いが、気持ち良い。 目を伏せるのが勿体無いとすら、思えた。 この男は、観賞する価値のある美貌だ。 そう思うと、どこかおかしくて笑いが唇からこぼれ落ちた。 ギアスでそう誘導したことは否定しないが、彼女自身美貌は散々誉めそやされた覚えがある。 「眠いのか?」 静かで、甘い、優しい声に、少しばかり首を横にした。 眠いわけではない。けれど、そう。 言われてしまえば、眠いのかもしれない。 「眠ればいい。俺はずっと、此処にいる」 握られた指先に、力が込められる。 どこまでも優しい男。砂糖菓子より、甘い男。 だからこそ、あんな結末を望んだのかもしれない。 世界が目を覚ますような、想いだった。 惰性で生きて、マリアンヌ達に協力してきたことすら、吹き飛ばせてしまうような。 これが恋だとは、どうしても思えなかった。 せめて、眠る前にこの感情の答えを見つけたかったけれど、時間が足りない。 嗚呼、それだけが悔やまれる。 引き攣るような喉を震わせて、彼女はいつものように不敵な笑みを浮かべた。 「ルルーシュ」 「……なんだ、魔女」 「ふふっ、最期くらい、名前で呼べ」 「らしくないな。弱気なんて」 「そういう気分なんだよ、坊や」 戯言を叩き合う姿は、客観的にみても主観的に見ても以前とまるで変わらぬものだ。 金色の瞳が上がり、しっかりと紫色を捉える。 「結局契約不履行だぞ、お前。私はもっともっと、美しく笑えるんだ」 社交界の華と謳われた私を、見くびるな。 言うけれど、彼女の笑みはなにより美しかった。 なにかを引き止めるように、口を開きかける。 けれど、C.C.。かつてそう呼ばれた魔女はもう、そこにはいなかった。 *** C.C.はコード手放して死ぬまで、ルルと一緒にいてくれるんじゃないかなぁ、って。 |