過去の記憶をもちながら、新しく生きる世界。
 そんな中に放り込まれたものの、大まかには変わることのない道を彼らは選んだ。
 まぁ、当然よね。ミレイは両肘をテーブルについて、息をつく。
 高校の制服に対する違和感は、もう失せていた。咲世子が静かにお茶のお代わりを、全員に注いでいく。
「家では、ルルちゃんの調子どう?」
「落ち着かれていますよ。コゥ姉様たちがやってきた時とは、比べ物にならないくらい」
 にこり、と微笑む言葉にかすかな毒と棘を感じ取って、コーネリアは頬を引きつらせることもなくむしろ鷹揚に頷いた。
「父上がなさろうとしていたという、アーカーシャの剣についても此方で牽制がかけられている」
「あ、この間、ロイドさん達が神根島の遺跡の入り口とか軒並み爆破してひとまずつかえないようにしてきた、って言ってたよ」
「フレイヤを開発するために組むチームも、今の情勢じゃ集める必要がないから大丈夫だと思う」
 それぞれに、ここ一ヶ月内で探ったり行動を起こしたりした結果を口々に報告していく。
 議長の座へ自然と収まっていたミレイは、嬉しそうに首を数度縦に動かした。
「なかなかいい感じじゃなーい?」
「まぁ、まだ問題多いけどなー」
「あぁ。黒の騎士団?」
「元は扇グループという、小さな反体制グループだったようですよ」
 自分は黒の騎士団が結成されてから、内部協力要員として入団した身なので細かいことは知りませんが。
 給仕に勤しんでいたメイドの言葉に、コーネリアが眉間に皺を寄せる。
 覚えているから、では無い。逆だ。
 エリア11は特に反体制運動が活発だった。そんな弱小組織のことなど、いちいち気にとめていられないのが現状だ。
 だが、何度となく煮え湯を飲ませられたのも彼女自身である。
 つくづく異母弟の頭脳には感心させられた。
 よくもまぁあんな寄せ集めで、あそこまでの戦場を生き延びられたものである。
「そういやルルーシュは? ロロがくっついてるなら危険はないだろうけど」
「ジェレミア先生とロロと一緒に、ユーフェミア様に校内を案内してる。あと十五分は戻らない予定よ」
「いや、ユフィのことだから、その倍は見たほうが良いな……。ルルーシュに、それだけ校内を歩き回る体力があるのかは疑問だが」
「ま、なんかあったらジェレミア先生が止めてくれるでしょうから。私たちは安心して作戦会議と洒落込みましょう、コーネリア様」
 ね? と、微笑みかけられ肩を竦めることで同意を示す。
 ロロは弟として、ジェレミアは除隊して教員として、このアッシュフォード学園に所属していた。
 はじめは唐突に現れた弟に、露骨な警戒を示していたルルーシュも、スザクが作り上げた「皇帝にたまたま手を出されてしまい身篭ったメイドの母を持つ」という背景に見事やられてしまった。
 あまりにもあんまりな説明であるし、それを証明出来るものなど何一つ持っていない。
 それでも良いのか、恐る恐るロロが問えば、あの男に何人子供がいると思っている! という鬼気迫るルルーシュに逆にやりこめられてしまったほどだ。
 確かに、百人超える妻や子供がいれば、認知されていない子供がいてもおかしくはないだろう。
 また、ジェレミアは数学教員として学園にやってきていた。
 忠誠ゆえに、ルルーシュ達にまで自身の立場を隠すことが出来ず吐露してしまっていたが、彼の忠誠心が本物なのは少し一緒にいればわかることである。
 おまけに、咲世子や何故かナナリーまで好意的とあっては、ルルーシュが警戒していられるはずもなかった。
 現在、クラブハウスにて咲世子と共に楽しい使用人ライフ兼学内では教師という生活を謳歌中である。
「それで、シュナイゼル殿下は本当に此方にはなんの干渉もされるおつもりはないんですか?」
「あぁ。私も最初は疑ったものだが。………結局兄上は、より多くに望まれる世界ならば拘りは無いのだろう」
「より多く?」
「つまりは、こういうことだろう? トウキョウ決戦の際、シュナイゼルが何故あの立場をとったのか。それは、あの世界、あの時間の現状を望む者が、多くいたからだ。進展もなく後退もない。誰かには酷く、万人に適度に厳しいものの、それでも平和と平穏を満喫していられるだけの人間が多くいた世界。そういった人間たちにとって、ルルーシュや枢木スザクが行おうとした変革は望む者が少なかった。だからあの男は反対の立ち位置をとった。現状維持を望む人間が多いと、判断したから」
 つらつらと語り終われば、魔女は大して面白くもなさそうにあんぐりと口を開いてピザを咥えた。
 オリーブがころりと紙の箱に落ちるが、大して気にしない。
 リヴァルが良い香りに誘われて手を伸ばせば、光速を超える勢いでその手を叩き落とした。
 括られた新緑の髪が、僅かな軌道を描く。
「ところが、今のこの世界は、現状維持を求める世界ではない。そうと思うからこそ、協力的なんだろうさ」
 そのうち簒奪でも起こすんじゃないのか、あの男。
 淡々とした意見であったが、内容は大層物騒なものだった。けれど、その可能性が高いことをこの場にいる誰もが否定出来ない。
「後は、その、アーカーシャの剣っていうやつ?」
「あの神殿自体は、本国の宮殿か中華連邦にある地下都市みたいなところからしか行けないみたいだけど、本国はちょっとね……。流石に、僕も無理」
「ギアスの本拠地だろう。あちらは潰したと言っていたな」
「イエス・ユア・ハイネス。ロロを迎えに行った時に」
「第一、アーカーシャの剣を本格起動させるには私のコードが必要だ。私がここにこうしている限り、計画は頓挫し続けるだろうさ」
 V.V.に寿命は無いが、シャルルにはある。
 最終手段は、それだけの時間待てば良い。あっさりと告げる魔女が、最後の一切れを口に運んだ。
「よーし! なんだかいい感じじゃない! ルルちゃんは兄妹仲良くなんかいいし、ニーナもあんな怖いの作ったりしないでいいし、スザクくんもルルーシュと争うこともないし、コーネリア様もこうして遊びに来てくださってるし、C.C.も……なんかいい感じっぽいし?」
 晴れやかに笑って、ミレイが手を広げる。
 両腕いっぱいに、幸せを抱きしめて。
「これからも、ルルーシュを問答無用で幸せにするために張り切るわよーーーーー!」
 おー! と、矢張り明るい声が溢れた。



***
 それから結局どうなったのさ。な、えくすとら。蛇足なのはわかってます。
 この場にオレンジはいませんが、主にナナリーと咲世子さん、C.C.様、学園三人組に枢木さんにリア姉様で結成されています。
 カレンとかに対してスルーなのは仕様です。←


希望に幸せ詰め込んで




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