混乱のまま、朝が来て。
 混乱のまま、顔を合わせて。
 混乱しながらも、それが自分だけではないと知って。
 けれど、アッシュフォード学園には行けなかった。
 今日の作戦が、なにをするのかわかっている。
 そして、どうなるのかも、わかっている。
 毒ガスを盗んで、絶体絶命の時にルルーシュの指令が入って、クロヴィスがゲットー壊滅を宣言。
 けれど、それもルルーシュの策に陥り失敗し、大量のKMFがプレゼントされる。
 最初の出会い。
 本当なら、学校で出会うのが一番はじめなはずなのに、病弱を偽っていた自分は学校なんて、という認識で。
 結果、ルルーシュと顔を合わせたのがだいぶ遅れた。
「扇さん」
「あぁ、準備出来たのか」
「えぇ」
 大丈夫。力なく笑ったカレンに、扇も疲れた笑みを見せる。
 南や杉山、玉城などは事情がわかっているものの、口外しないようにしようと決めたのは扇だった。
 未来の情報を知っている、などと言っても、きっと信じては貰えないだろう。
 大仰に身振り手振りでどんな動きのKMFが出てくるのかを話す玉城を、誰も構っていないのが良い証拠だ。
 真実を話したからといって、受け入れられるとは限らない。
 それが、超自然的なことならばなお更だろう。
「………ゼロは」
 ぽつりと呟かれた名前は、これからすぐに、英雄となる男の名だ。
 そして、自分たちが(そんな認識はまったく無いけれど)追い落とした男の名であり、仮面の記号である。
「ゼロは、こんな気分だったのかしら」
 言われてはじめて気づいたように、扇は沈黙した。
 ギアス。
 絶対遵守の、王の力。
 命令された人間は逆らえず、最中の記憶を一部喪失する。
 どんな命令も、ギアスにかかれば背くことは出来ない。
 もしもゼロに言われたら、笑うことなく素直に信じただろうか。
―――無理だろうな。
 考えるまでもなく、結論は出てきた。ふざけないでくれと、言うのが関の山だろう。
 つまりは、そういうことなのだろう。
 ゼロが、ギアスを黙っていた理由の一端は。
 思い返して、思考を振り払うように被りを動かす。
「よそう、ゼロの話は」
「でも!」
「ブリタニアが、どういう手でどういう風に来るのか俺たちはわかってる。装備は十分じゃないけど、これは十二分にアドバンテージになる」
「………ジェレミアも、いるのかしら」
「どうだろうな。俺たちみたいに、記憶が無いかもしれない」
「足止め、頑張るわ」
「頼む」
 言われて、カレンは力なく首を振った。
 未来がある程度わかっているというのは、希望であり絶望だ。
 避けられるように、極力努力をするつもりではいるけれど、避けられなかった時に諦念を抱いてしまいそうで。
 止そうと言われたのは、つい今しがたのことなのに、結局彼女は思考の堂々巡りを止めることが出来ず話題として出してしまった。
 扇自身、本当に避けられる話題であると思っていなかったのだろう。
 口調はゆっくりと重いものの、もう打ち切ろうとはしなかった。
「ゼロ……ルルーシュのこと、どうするつもり? 扇さんは」
「考えは色々ある。ゼロとしてやってきたら、彼の正体を告げて、ゼロとしてではなく、ルルーシュとしてどうするのか聞いたりは、したい」
「きっとびっくりするわ。すごい、神経質に素性を隠していたんだもの」
「彼の頭脳は、シュナイゼル殿下と渡り合うのに必要だからな。味方になってくれるなら、ありがたい」
「そうね。ルルーシュは、ブリタニアが嫌いだもの。きっと、ブリタニアをぶち壊すためなら協力してくれるわ」
 頷きあって、けれど沈黙が支配した。
 彼の頭脳、ゼロという存在。
 たったひとつで日本を取り戻せるほどの価値があるということを、自分たちはもう知ってしまっている。
 それを隠して、知らない振りをして、彼を利用せずにいられるのか聞かれたら、一瞬でも答えを迷ってしまうだろう。
 自分たちは、それで一度日本を取り戻そうとしたことがあるのだから。
「シュナイゼルへホットラインを繋げられるようになったら、ルルーシュのことを言ってみるのも悪くはないかもしれない」
「えぇ。被害は、最小限のほうがいいわもの
 言葉は上滑りをしていく。
 扇にせよ、カレンにせよ、これが人として最悪である自覚はあった。
 けれど止められなかった。
 仲間が誰も死なないで、日本が取り戻せる手段を、自分たちはもう知っている。
 まして、相手は未来悪逆の限りを尽くし、現在は身を隠してはいるものの皇族に名を連ねていた存在。
 自分たちが罪悪感を負う必要など、どこにも無いはずだ。
 言い訳が脳裏を駆け巡っていく。そうしないと、押しつぶされそうな数年間だったのだ。
 彼を利用して、非難して、けれどルルーシュからは一度だって憎悪の言葉をたたき付けられることなく、彼は世界全ての悪を抱えて逝った。
 謝罪を口にするより前に、逝ってしまった。
 今更、なにを言って良いものなのか。もう、わからない。
 何より、彼の功績を認めてしまえば自分たちの非は明らかだ。築いた幸せさえ後ろめたさの城となってしまうことは明白だった。
「カレン」
「どうしたの?」
「ゼロは………、ルルーシュは、この世界にいるんだろうか」
「いると、思う。記憶があるかは、ちょっとわからないけど」
「記憶があったら、俺たちを助けてくれると思うか?」
「………すごい、図々しいけど」
 たぶん、助けてくれるんじゃないかしら。
 浅い頷きに、扇は笑った。
 罪悪感に、打ちのめされて。



***
 自分たちは悪くないと、言い続けての数年間(本編終了後)だったんじゃねぇかなぁ、と思ったり。
 いい加減、この連中の反省が見たいんですが自己反省する切欠とかきっと周囲誰も与えねぇだろうなぁと思ってしまう私は相当性根腐ってますね。
 でも、正直咲世子さんとか黒の騎士団にはもう係わり合いになりたくないんじゃないかと思っております。


獣の如くは、暗き思ひす。




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