今のゼロは、二代目だ。 では、初代のゼロは誰なのか。 世界が落ち着きを取り戻しつつある、平和な一日で。 ふと話題になったそれは、瞬く間に世界中に広がった。 今のゼロが二代目なのは、周知の事実である。それが、ゼロの遺志を継ぐ者なのかどうかは最早想像するしかない。 初代であったゼロの死亡。それは、第二次トウキョウ決戦の際に黒の騎士団より発表された代物だ。 ゼロが黒の騎士団を率いてきたことは、子供だとて知っている。 そうとなれば、味方が偽りの死亡を流すはずはない。なにしろ、必要がない。 だからこそ、あれは二代目だろう。 それが、まずは段階としてひとつ目の共通認識だった。 全てを知らずとも、推測を立てていくことは出来る。もっとも、流石に黒の騎士団がゼロを追放し、あまつ売ろうとして失敗しことの露見を恐れて暗殺しようとした。というところまで辿りつく人間はそうそういなかったし、インターネット上でその仮説を披露した者は一様に笑い飛ばされていたが。 では、二つ目のステップ。 ゼロの遺志を継ぐ者、その可能性としてあげられる者は? はじめに名前があがったのは、黒の騎士団の幹部たちだったがすぐに違うだろうと出た。 なにしろ、その二代目ゼロが現れたその時に全員処刑されるために拘束されていたのだから。 次に上がったのは、諜報部かなにかの誰か、ということだった。 情報統制は見事の一言。ならば、変わり身を演じきれる人間もいたのではないか。 笑い話にしかならず、この段階で憶測と推測と一蹴にされるしかない真実が転がっていた。 世界で広まり、なお続けられていく議論にも満たない児戯のやりとり。 おかしそうにゼロは笑い、テーブルに集う人々を見つめた。 視線の中にはアーサーもいるが、なに、構うことは無いだろう。事実彼は、ゆうるりと欠伸さえしているほどの気侭さだ。 「面白い意見だ」 一言、切り出した声音に扇たちは言葉が無い。 目の前のゼロは二代目であり、ゼロに近しい人物だった。 そこまでは、確かに世界の認識通りだ。子供だって、たどり着ける。 ただ、あまりにも初代ゼロに謎が多すぎて、近づくに近づけないだけなのだろう。 「真実に近づいた者がいる場合、君らの対処を知りたい」 問いかけに、やはり扇や神楽耶、星刻たちは無言を貫くばかりだ。 真実に近づいた。 それは、とりもなおさず黒の騎士団がゼロをブリタニアに売ろうとしたという事実までの発覚になる。 今、世界はようやく超合集国を機軸に動き出そうとしている。 黒の騎士団の事務総長扇、彼らにとっては後ろ暗いにもほどがある事実であるし、黒の騎士団指令黎星刻や超合集国議長神楽耶などにとっては部下の独断専行と身勝手を許し、なおかつ手綱を引ききれていないという良い証明になってしまう。 そんな人間を、各国首相たちが納得するか。納得して、安心して、席に座ったままであることを潔しとするか。 難しいところだろう。 すぐさまありえない、とする理由は単純だ。 ゼロがルルーシュだと、認めるには要素が足りない。 悪逆皇帝とまで二つ名のついた少年が、奇跡を起こしたゼロであり殺されるところまで計画だったとする、根拠が足りないのだ。 まさか、たかが十代の少年がそんな覚悟をもって皇帝位に就いたなどと半世紀をゆうに過ぎ去った国家のトップだろうと思うまい。 「今、私のパソコンには、事実と真実、それを証明するための物的証拠、論拠、根拠を揃えたデータが揃っている」 勿論、ギアスの存在は省いたが、それにしても結構なデータが揃っている。 はっとした顔で、テーブルについている面々がゼロを見つめた。 悠然と構えているのは、ギアスにかかったままなのかわからない目を伏せた姿のシュナイゼルとナナリーくらいのものである。 アーサーに至っては、少女の膝から降りて優雅にゼロの近くのテーブルへと移った。 ちらりと上げる猫の視線は、本当に良いのかを問う程の余裕を見せている。 「ゼロ様。あなたのお考えを、教えてくださいませんこと」 遠回りは無しだと、答えを求める第三代超合集国議長に、指をいくらか動かして応じた。 ゆれる指先は長く、しかし手袋越しにもわかるほど無骨な成長をあらわしていた。 「初代ゼロが何者であるのか。発表する」 「それによって引き起こされる混乱は」 「君らでどうにかするといい」 「そんな、身勝手な!!」 椅子を後ろへ倒す勢いで、数人が立ち上がり非難をあげる。 世界はやっと、落ち着いてきた。 黒の騎士団と超合集国を中心に。 けれど、その中心が本当は空洞だとしたら、どうなるだろう。 民衆の不安は、一気に膨れ上がる。そうして起こることは、あちこちでの暴動も視野に入れる必要があるだろう。 わかっていて、けれどゼロは笑った。仮面越しではわからないが、笑った気配をナナリーは感じ取った。 「我々の身勝手さ故に、彼は自分の命を代価に世界へ安息と安寧を取り戻そうとした。……勿論、世界を混乱に叩き込んだからといって、彼が戻ってくるわけではない」 だが。 ほう、と、呟かれる声音は小さかった。 ただ部屋の中にいる人間に届けば、構わないとされるほどの大きさしかなかった。 「私は、やはり納得出来ない。彼が失われなければならなかった理由が」 「それは………」 「お兄様であれば、黒の騎士団を率い武力を以って超合集国に参加を認可させることなく、駒を進めたはずだ、と。仰りたいのですか」 「その通りだ」 当初の予定であれば、ブリタニアを倒し、貴族制度を撤廃し、財閥を解体させ、ブリタニアという国を分割し、いくつかの領主から暫定代表を決め、その上で超合集国が国々のパイプ役となりながら民主主義の広まる穏やかな世界をつくり上げるつもちだったと、スザクは知っていた。 崩れたのは、黒の騎士団が銃口を突きつけてくる敵となったためだ。 大幅に予定が狂った。 黒の騎士団と、ゼロ。目的は同じだったはずなのに。 「今、それは必要なことですか」 「むしろ、今でなければと思っている」 「それは、何故ですか」 「無条件に与えられた平和ではないと、人々に知らせるために」 それは、たった一人の犠牲かもしれないけれど。 自分にはまったく関係ない、どうでもいい相手かもしれないけれど。 彼がはじまりで、彼が終わりで、彼が求めて、彼が創った世界だと。 示さなければ、きっとまた、人はすぐに繰り返す。 そして安易に犠牲を求める人間性が、培われてしまう。 メシアになりたがる人間は多い。ダークヒーローを気取りたがる人間も、多いだろう。 けれど本当にそこまでの覚悟を持って行える人間など、滅多にいないのだということを。 世界に示さなければならない。 仮面越しでありながら、明瞭な声でスザクは宣言した。 「私が公開するのは、あくまでも初代ゼロの正体と、その信念だけだ。黒の騎士団がゼロに対し、なにを行いその結果なにを得ようとしたのか。そんなことまで、公開する気は無い」 二代目である自分が誰であるのか明かす気はなければ、黒の騎士団の所業をオープンにする気もない。 公にするのは、それだけ。 ゼロが指を組み、意見を求めれば反対が大多数を占めている。 仕方ないかと、ゼロはパソコンから手を離し背凭れへ体重を預けた。 途端。 ―――トン。 アーサーが、エンターキーを押していた。 「え?」 「おや」 「な?!」 あがる声など無視して、アーサーがくぁあ、と欠伸をする。 硬直は、すぐに解かれた。 会議場としていた、この館のメイドが我を忘れるように走ってくる足音のためである。 「失礼いたします! あの、先ほどから一斉に取材や事実確認の電話が………!!」 扉越しに、荒く息をつくメイドの声が二つ、三つと増えていく。 防音を保つようにしているこの部屋まで届くのだから、相当数の電話が鳴っていることだろう。 「ゼロ様、メールの殺到で、超合集国のサーバーがパンクしてしまったそうですわ」 「………アーサー」 「まぁ、駄目ですよ、ゼロ。アーサーのせいにしては」 半ば恨み言めいた声音で呼べば、にこりとナナリーは笑う。 手招きをすれば、理解しているかのように猫は軽い足取りで彼女の元へ向かう。 膝の上に柔らかい熱を乗せ、すみれ色の瞳を笑顔にして。 「アーサーも、お兄様のことが大好きでしたのに。意見を聞かずに、失礼しました」 わかってくれればそれで良いのだと、少女の膝の上、丸まりながら猫はぱたりと尻尾を振った。 *** 世界にゼロバレ。 黒の騎士団の最大の失敗は、ゼロの死を報道したことですよね。誰がなってもいいようにゼロを記号にしたのに。 実際はゼロとバレる前、なんですけどねorz ルルの愛は、世界に伝わって欲しいな、と。(そしてその前には連中にきっちり反省して欲しいな、と。← |