誰の理解もいらないから。 あの時君と、死んでしまいたかった。 零される、ひどく小さな声音に、ルルーシュは目を瞬いた。 書類に目を通していた顔を上げ、騎士を見やる。 そこにいるのは、自分の騎士を名乗る、彼女の騎士だ。 自分と、彼は、ただ、利害が一致しているから組んでいるに過ぎない。 共犯関係ということさえおこがましい。 そんな幼馴染が、こぼしたものは、あまりにも心に近い言葉だった。 「スザク……?」 「ん?」 つぶやきなど知らぬとばかりに、既に相手は平然とした顔をしている。 けれど、憔悴の色も見て取れて。 ルルーシュは、ペンを置いた。 嗚呼、この五分足らずでどれだけの書類が採決できて裁可が下せて睡眠時間にまわせるだろう。 スザクは思って、けれど甘えるように白い姿をした偽りの主君へ腕を伸ばした。 心の中で、主君とするのはただ一人だ。 花のように純粋で、無邪気で、無垢で、最期まで、スザクが誰かを呪うことを願わなかった、少女。 彼女だけが、スザクの主君だ。 例え誰に、膝をつくことになろうとも。 それでも甘える腕に縋るのは、結局、世界の真実を知る者はごくわずかしか残されず、その極僅かの中にスザクにやさしくしてくれる存在がいないせいだろう。 頼めばセシルあたりなら甘えることを許容してくれるかもしれないが、それが手料理である可能性は否定出来ない。 散々地雷を踏んできた自身だが、自分から地雷に特攻をする度胸は無かった。 はじめに迎え入れてくれた腕は、彼だった。 ナナリーと少し仲良くなって、それから彼がナナリーを介して自分を受け入れてくれて。 やさしさを、教えてくれたのはルルーシュだった。 「疲れたか?」 「そうでもない」 「そうか」 「うん」 どこか幼い仕草でスザクは頷いて、膝の上に頭を預けた。 くしゃりと撫でられる、冷えた指先が気持ちよい。 こんな風に撫でられたのは、子供のときでさえあったかわからない。 二人は、子供でいられる時間があまりにも少なすぎた。 周囲は彼らに子供であることを認めなかったし、大人として肩を並べさせることもなかった。 だから、見くびられないように、波風を立てないように、見下されないように、争わないように。 あらゆる気をつかい、自分の立ち位置を守ってきた。 自分なんて、押しつぶして。 「ルルーシュ」 「ん?」 「君と、死にたかった」 君の役に立って、死にたかった。 希望は、過去形だった。 それがうれしかったのか、ルルーシュは今は赤く染まっていない紫の眼を細めて笑う。 やさしくやさしく、髪を撫でられた。 「君と死にたかった」 絶対にかなえてくれない願いを、スザクは繰り返す。 あの日。 再会した、その日に。 お互い死んでいたら。 こんな選択をしないで、済んだのだろうか。 未練と悔恨と呪詛を口にしながら、それでも二人、死ねたら。 あの日。 *** あの日、ってのは一期一話のアレです。 C.C.様がいなければ、とは言えないヘタレ。← |