最後の、静かなひと時だった。
 彼女はそれを理解していたから、静かに存在していた。
 あちこちで沸く、悪逆皇帝への反逆の旗。
 ナイトオブゼロが没しても、ジェレミアが率先してそれらを潰しにかかった。
 徹底的にみせて、実はより多くの人を活かす作戦をとる。
 気づかない人間には、壊滅させられたという絶望が。
 気づいた人間には、馬鹿にされているという憤怒が。
 世界中を占めていく。
 けれど、この宮殿は静かだった。
 次々と辞していく使用人を、止めることはなかった。
 ルルーシュが没してから、正式に慰労金と退職金が支払われることになっている。もっともそれは、ゼロからの心ばかりの金、ということになるのだが。
 世界から憎まれて、憎まれ続けて、消えずに消えていくのが似合いだと。
 未だ青年と呼んで良いのかすらわからない少年は、笑った。
 俺は、世界のノイズだったから。
 呟きは、とても優しかった。
「ルルーシュ」
「どうした」
 腹でも空かせたか。
 問えば、ピザのデリバリーは来てくれそうにないからな、と、魔女は肩を竦めた。
 あつあつのピザが食いたいと言えば、もう少し辛抱しろ。笑ったまま、返される。
「悪逆皇帝打倒セールとか、しそうじゃないか?」
「もしそうなら、Lサイズピザが鱈腹食えるな」
 二人は額を付き合わせた。
 おかしい。
 笑いがこぼれる。
 不意に、金色の目が共犯者の顔をまじと見つめた。
 きれいな顔だ、きれいな顔だと思っていたが、本当にきれいな顔だった。
 静かに笑うのが、似合う男だ。
 この男の本質は、こちらなのだろう。静かに、やさしく、笑うことが。
 憎悪に身を焦がし、復讐に身を窶し、権謀術数の限りを尽くす、ただそれが、出来てしまったというだけで。
 この男の本質は、静かに他者を愛するということなのだろう。
 無論、裏には王としての本質もあるのだろうが。
「C.C.?」
「うん?」
「なんだ、顔が近い」
「いや、いいじゃないか、なぁ?」
「誰に同意を求めているんだ、一体」
 浮いた声音で疑問符を浮かべられ、ルルーシュの顔が歪む。
 けれど相手は魔女で、C.C.だったがゆえに、気にされることなど無かった。
「なんだ、一体」
「きれいな顔だと、思ってさ」
「ほう。魔女はこの顔が好みか」
「ふざけるな。お前、自分の価値をわかっていないな。ドジっこと家事万能を含めても、お前の価値の四割はその顔だぞ」
「おまっ………! 言って良いことと悪いことがあるだろう!」
 なんだそれは! 誰がどじっこだ!!
 吼える相手に、突っ込みはそっちかと魔女が半眼になって見つめてきた。
「………勿体無い」
「ん?」
「この首は切り落とされて、高々と掲げられることだろう。折角きれいな顔だから、踏んだりはしないで欲しいな。ジェレミアに言って、せめて遺体だけでも守らせようか」
「やめておけ。すぐに撤退しないと、間に合わない。アイツにそんな危険な真似は、させられないさ」
「じゃあ、私が取りに来ようかな」
 せめて、首だけでも。
 拙く笑う少女が、そっと共犯者の頭を抱いた。
 少しだけ、体重が移動されて、彼女の腕の中に寄りかかる。
「それもやめろ」
「私は魔女だ。今更、誰かに恨まれることくらいわけもない」
「駄目だ。この身体も、なにもかもを、すべて世界へ使うんだ。お前にも、やれない」
「ケチくさい男だ」
 ぎゅ、っと、抱きしめる力を込めた。
「青空に生首って、シュールだよな」
「それが綺麗な顔なら、問題あるまい」
 嗚呼、この男は明日死ぬ。



***
 遺体どうなったのか気になります。
 ジェレミアが回収する余裕あったのか。


Memento mori




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