悪逆皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。 彼に逆らったとする、黒の騎士団。そして、シュナイゼル・エル・ブリタニア。 彼らの処遇は、一息に「無罪」で終わった。 また、捕縛されていたキャメロットの面々も無罪放免で終わっている。 もっとも、ニーナ・アインシュタインに関しては、厳重監視が敷かれ、あらゆる研究機関への所属が無期限禁止となっている。 だが、罪としては軽いほうだろう。彼女は若い。 本来の得意分野ではなくとも、新たな発見として得意なことを見つけられることだろう。 「魔女の行方は、わかりませんか」 神楽耶の仕方なさそうな声に、星刻は重くうなずいた。 天子のいない部屋、彼と二人というのは珍しいことではない。 亡命中、天子には流石に聞かせられないような内容を何度か話し合う必要があったためだ。 「世界から一人を探し出すには、時間もかかるだろうが」 「まぁ、あの魔女のことですから。わたくし達の目を掻い潜るくら、わけはありませんでしょう」 ジャスミンティーを口にして、神楽耶は広げられた書類のいくつかに目を走らせた。 あれだけの騒ぎを起こして、戦争の永続的な禁止が叫ばれている世界なのに。 それでも、争いたがる人間は多い。 多くは、やはりブリタニア人が原因だった。 最初の数ヶ月こそ、皇帝ルルーシュへの憎悪でそれどころではなかったにしろ、事態が落ち着けば不満が湧き出てくる。 なにしろ、長い年月を既得特権の階級として謳歌していたのだ。 それが、今更見下していたイキモノ(彼らにとって、ナンバーズは人間ですらなかった)と同類などと、寒気のするほどの事態だろう。 「ルルーシュが、逆らう者は一族郎党皆殺しにしたとしていたが」 「実際はそこまで苛烈だったわけではないようですね。報道として、大きくそうしていただけのようですわ。ほら、ここ。計画賛同者以外の血族の方々は、言質をとって解放していらっしゃいます」 細い指先が、紙面を撫でる。 少女の示す先を見やれば、ああ、と星刻も納得したようにうなずいた。 「どれだけいっても、人は争うな」 「人間ですもの」 だが、だからこそ仕方ない。などとしてはならない。 現状の神楽耶には、力がある。 三代目合衆国最高議長、という名の、力が。 星刻にしても、黒の騎士団最高司令官という名の力がある。 力は、振るうことで発揮される。 けれどそこに、ただ我欲のための意思が働いてはならないのだ。 人間だからこそ、争うからこそ、心がなければならない。 意思を捻じ曲げて、苦しいからと、逃げてはならない。 意思に従って、気に入らないからと、強行してはならない。 世界は今、やっと落ち着いてきた。 誰かを憎むことで得られた平穏を、これ以上揺るがしてはならない。 「ひとまずは、此方で情報を掴んでいるということを牽制しておきましょう」 「我々が直接出るのは、その後か」 「えぇ」 「ゼロは、どう出ると思う?」 「あの方に、政務や政治、政略をお聞きするのは、無謀ですわよ?」 なにしろ中身が、アレでは。 苦笑交じりの少女に、青年は嘆息をついた。 「せめて、ルルーシュも己と同様レベルの頭脳の人間にすれば良かったものを」 「いいえ、それでは駄目です」 「ほう?」 「あの方には、アレが、一番なのでしょう。信頼も信用も出来ないけれど、約束を守らせるという一点においては、同じ理想を頂くという一点においては、あの方にはアレが最善だったのでしょうから」 他の誰にも、ゼロを背負わせられない。 世界の正義を守らせる、なんて、苦難を背負わせるわけにはいかない。 同じ罪を知るからこそ。彼らは、彼らの間で契約を結んだのだ。 決して反故にされないと、知っているから。 「幸い、シュナイゼル閣下もいらっしゃいます。ブレーンには、事欠きません」 「それさえ、ルルーシュの計算のうちか」 まったく、やってくれる。 浮かぶ青年の笑みは、けれど優しい。 「世界に、最低限の平和は導いてくださいました。ならば、これより先の平和は。これより先の、発展は。わたくし達に、託された"願い"ですわ」 「わかっている」 だからこそ。 「明日の朝日を、みんなで見るために。必要な努力を、いたしましょう」 「一先ずは、こちらの情報整理からだろうな」 「えぇ。終わりましたら、天子さまと一緒にお外でお茶など如何です? きっと、お勉強でお疲れでしょうから」 甘いもので休憩でも。 にっこりと笑う少女に、星刻がかなわないとばかりに肩をすくめる。 それが、了承の合図であることは言わずもがなだ。 書類を揃えながら、窓へ視線を走らせる。 爆音のない生活なんて、久しぶりだ。 人殺しのない空なんて、ありえないけれど。 それでも、穏やかな昼下がりなんて。なんて、美しい。 「嗚呼、本当に良い天気ですこと」 テラスでお茶をするには、最良だろう。 *** きっと神楽耶様はゼロ(中身スザク)に笑顔で毒吐き続けてくれると信じてる。 扇さんが首相だと知った時点で、日本オワタ。と思った私は悪くない。 |