意外だと、ニーナは素直に思った。
 アーニャやジノがいないなら、わかる。
 彼らは、学園にいても学園の生徒だったわけではない。
 ただ、彼らはこの学園に遊びに来ていただけだ。
 遊びに来ていた人間を、一時的に生徒と認めるかもしれないけれど、本学の生徒である。などとは言えないし言わないだろう。
 だが、カレンは違うはずだ。
 彼女は、確かに此処にいたはずだ。
 生徒会役員の一人だった。なのにどうして、屋上にいないのか。
 不思議だった。
 もうひとつ不思議なことがある。
 どうして、今の時間なのだろう。
「よ、ニーナ」
「リヴァル。はやいね」
「俺が主催だからさ」
 既に彼の足元には、用意が整っていた。
 ジェット花火や手持ち花火、ねずみ花火閃光花火。
 とりあえず、片っ端から集めてきたとばかりにその量はかなり多い。
「こんなにたくさん?」
「多いほうが、いいだろ」
 そうだね。
 リヴァルに笑って頷くと、笑い返してくれた。
 彼が得意だったとは、言わない。もしかしたら、苦手だったかもしれない。
 彼は、ミレイが好きで、でも、ミレイに対してコンプレックスの多々ある自分には、自分のすべてが駄目だと言われている気がした。
 自分は駄目、ミレイは素晴らしい。
 彼一人の意見が、当時のニーナにとっては世界中の意見のように大きく聞こえた。
 今は、そんなことは無い。
「あら。私が最後?」
「でっすよ、会長。遅刻じゃないですけど、最後ですからね?」
「え、そうなの? ……そう。――さぁてでは、今日はなにかなリヴァル・カルデモンドくん! 私を昼休みに呼びつけるたぁ、いい度胸じゃない!!」
 ミレイもまた、カレンの不在が気になったのだろう。
 しかしなにも言わず、彼女は常にそうであったようにけらけらと楽しげに笑った。
「すいません、会長。いい、天気だったんで、ちょうど良いかなぁ、って」
「花火が?」
「花火が」
 頷かれ、ミレイは笑った。
 花が咲くように、やさしく。
 いそいそとしゃがみこんで、掴むのがドラゴンロケット三連弾四本なのはどういう了見だろう。
「ちょ、え、ミレイちゃん?! 火薬の扱いには、慎重に………!」
「だぁいじょうぶだいじょうぶ。お祭りだもの!!」
 ニーナの正論は、ミレイの暴論により取りざたされなかった。
 リヴァルも笑う。
 笑って、けれど手にするのはもう少し良心的な花火だった。
「青空じゃ目立たないっすよねぇ」
「いいのよ。だって、いいんだもの」
「いいの、かな。うん、いいんだよね」
 この場に、カレンは呼ばない、呼べない、呼んではいけない。
 三人はひそやかに目を伏せて、開く。
「とりあえずミレイちゃん、それは危ないから置こう? ね?」
「仕方ないわねぇ。他ならぬニーナの頼みじゃ」
 仕方なさそうに置くけれど、きちんと距離を取っているあたりわかっている証拠だろう。
 リヴァルが、導火線にひとつひとつ火を点けていく。
 ひゅっ………! 風を切る音とともに、花火が青空へ上がる。
 はじけた音がしばし。
 けれど、明るい太陽の光に火花は負けてしまって光ったところなんて欠片も見えない。
 それでも、あがっていく。
 いくつもいくつも。
 音に気づいている生徒も、特段気にしない。突発でイベントが起きるアッシュフォード学園だ。
 ちょっとした音なんて、日常茶飯事。むしろ、次の生徒会企画のなにかか、その分析中だろう。程度にしか捕らえていない。
 あがる花火を、彼らは目で追った。
「見たかったなぁ」
「え?」
「花火」
 ニーナが言えば、その細い肩をミレイがきゅっと抱いた。
 屋上に出されたテーブルの上で、写真のシャーリーが笑っている。
 ナナリーが笑っていて、ロロが笑っていて、ルルーシュが薄く、笑っている。
 花火があがった。
 涙がこぼれた。



***
「またここで一緒に、花火をあげよう」
 叶うことは、なかったけど。それでも。


秋空に花火はよく似合う




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