願うような言葉だったから。 絶対に、それだけは叶えてやらないと。 心の底で、そう、誓った。 細い身体が受ける月の光は、冴え冴えとしている。 晩秋の頃といえど、そもそもが改造しないかぎり厚着の制服だ。 寒さを感じる隙間は無い。 バルコニーに出ているゼロを追って、ジノは顔を出した。 今年で十六、彼は十七。妹姫は十五、アーニャは十四。 年少組はまだまだ年少組扱いで、ノネットによくお菓子を与えられるくらい。 けれど彼らは戦士として、騎士として、あまりにも有能で。 子供と大人の間を、その場その場で行き来しなければならない。 自分たちから立場を取り除いたら、なにが残るのかわからないくらいに、どこへ行けば良いのか。 「ルルーシュ」 「どうした……?」 この年代のひとつ、ふたつ年長は大きい。 そういう意味で、アーニャとジノの面倒は率先してルルーシュが見てくれていた。 やさしく、厳しい存在は、二人にとってひどく大きなものだ。 「ルルーシュは、どうして騎士になりたかったんだ」 「……なりたかったわけじゃない。ただ、見つからなかっただけだ。最良の方法が」 妹を守り、アッシュフォードを守り、母の誇りを守る方法を。 短い時間では、なにも手に出来なくて。 自分を切り売りするしか、わからなかっただけ。 「ジノは、どうして?」 「私か? ………意外だ」 「なに?」 「ルルーシュが、私のプライヴェートに触れたのは、これが初めてのことだぞ?」 言われて、はしたないことだと気づいたのだろう。 きゅ、と口元を引き結ぶと、謝った。けれど、ジノは気にする様子もなくかんらかんらと笑う。 「違う違う。うれしいだけだ。ようやく、少しは触れられる場所に来れたのかな、と」 「そんなことは」 「あるさ。ルルーシュは、私やアーニャをどうにも庇護すべき対象だと見てしまっているからな。無意識的に、汚い話や惨い話から遠ざけようとしている」 「………そうなのか?」 「うん。アーニャも気づいて、ちょっと怒ってた」 「………、馬鹿にしているつもりは、ないんだが……」 「それもわかってる。ルルーシュは優しいだけなんだよな。でも、侮辱とは思わないが、少し悲しいのも事実だ」 戦える側の人間にとって、ひたすらに守られているというのは矢張り切ないことで。 信用してくれと、ジノは人懐っこい笑みを浮かべた。 言われて、こくりと首を縦に動かせば、既に頭ひとつどころではなく育ってしまった幼馴染で同僚の顔が輝いた。 「私たちは、陛下に仕える剣だ。国を守り、帝国臣民を守り、他国を蹂躙し、他国の人間を人間外に追い落とす。悪いことだとは、考えない。けれど、正しくは無いのだろうとも思う」 けれど。 言い募るジノの瞳は、真面目で。 星が彼に、吸い込まれていくような心地になった。 「正しさが常にどこにも無いなら、私は私の誇りと私の願いのために剣になる。……今のところ、私の願いと誇りはこの国の利益にかなっているから、今のまま動くことは無い」 「……お前の正義が、揺らいだら、どうなる………?」 「その時は、私の信念に従う。誰と敵対しても」 「俺と敵対しても?」 「そうならないことを祈るけど、どうだろうなぁ。ルルーシュの心は、もうとっくに妹姫にささげられているだろう? 陛下に忠節を誓う私とでは、たぶん、最終的なところで食い違う」 擦れ違わない、食い違う。 ボタンの掛け違いのような、小さな、けれど徹底的な不具合として。 「そうならないといいな」 「本当だ。私は、未だルルーシュを凌ぐ知略の将を五人と知らない」 敵対するのは怖い。肩をすくめながら言うのは、本心なのだろう。 わかったからこそ、ルルーシュも笑った。 「ジノ・ヴァインベルグ」 「ん?」 「友でいてくれて、ありがとう」 「いつか終わる日が、始まる日であればそれ以上幸福なことはないさ」 笑って、けれどだからこそ、いつの日か別たれることを確信する。 細い四肢に、後ろからかぶさる様に抱き着けば、ルルーシュはただ笑って受け入れてくれた。 今はまだ、平穏だった。 *** ルルーシュには目的があります。ジノには信念があります。 自分のそれが、誰かとかみ合うことのほうが、世界的に見れば奇跡だと思います。 |