私は開けなくてはならない。
 世界を。
 鍵、鍵、ダモクレスの鍵。
 私を罪へ誘う鍵。鍵、鍵、私の鍵。
 私の役目、私の鍵。
 鍵、鍵、私の鍵。お兄様と私の罪。罪は裁かれなければならない。
 鍵、鍵、私の鍵。世界のために、平和のために、お兄様のために、私のために。
 罪は償わなければならない。
 鍵、鍵、私の鍵。私を罪びとへ至らしめる。人を殺す。
―――殺す?
 手元に、触れたのは鍵。
 スイッチは容易い形。これで、殺せる。
 人が殺せる。
 手を汚すという、不快感。
 違う、唇が震えるけれども、それを掴んだ。
 掴まなければならない、掴まなければいけない、それは私の義務なのだ。
 鍵、鍵、私の鍵。手元に引き寄せて。
 扉を開けるのはお兄様。どちらの? いいえ、答えはわかっている。
 私は罪びと、あなたも罪びと。
 どちらも正しくはないのでしょう。
 鍵、鍵、私の鍵、ダモクレスの鍵、フレイヤの発射装置。
 私をどうか仕合せにして。お兄様の罪を裁かなければいけない。
 それは私の義務なのだ。
 鍵、鍵、どうかダモクレスの鍵。
 世界に残った少ない人に、教えてあげて。まだ平穏は取り戻せると。
 平和は此処に、確かにあると。
 誰かが傷ついているなら、その人に安らぎを。
 誰かが悲しんでいるなら、その人に温もりを。
 誰かが嘆いているのなら、その人に優しさを。
 だって世界は、素晴らしいはずなのだから。
 だって世界は、いくらでも美しくなれるはずなのだから。
 だからどうか、ダモクレスの鍵。
 私の責任、私の義務。
 どうか世界を平和にするために、覚悟よ戻ってきて私の手の中に。
 多くの人を殺してしまった私を許さないために、お兄様を許すために。
 手を汚します、あなたのために。
 これが愛です。私の愛です。
 だからお願い、鍵、鍵、私の鍵。
 私をあなたを殺す鍵。
 世界を開けなくてはいけない、私のために、お兄様のために。
「―――はじめまして、十八歳のお兄様」
 それが人だと、一瞬わからなかったのだけれど。
 目の前にいるのは兄だとわかった。以前、ゼロが来た時はわからなかったのにわかった。
 向き合いましょう、貴方という罪と。
 いとしいお兄様の形をした、罪と。
「―――お久しぶりです、ゼロ」
 私に優しいあなたは誰ですか。
 ルルーシュお兄様ですか。
 ゼロですか。
 私を切り捨てた、皇帝ですか。
「―――お初お目通り叶います、皇帝陛下」
 鍵、鍵、私の鍵。握り締めて、縋り付いて。
 大丈夫よと、私は自分に言い聞かせます。
 世界は平和になるはずだから、世界はやさしくあれるはずだから。
 武力も血も、本当はこの世界に必要なんて無いんです。
 だから、私もあなたも世界に必要ないんです。
 罪は沢山背負いました。
 罰は沢山残っています。
 消化するのは、大変でしょう。
 一人では、負いきれないかもしれません。
―――だから。



***
 友人が、一期初期から「開眼ナナリーがラスボス」と言い続けていたのですが。
 本当にそうなって、納得しました。やっぱ凄い人だ。


地獄の底で共倒れ




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