険しい表情のまま、宣戦布告は為された。 一方通行で然るべきなのだから、当然なのだが。 繋がった時同様に、消える際も唐突だった。自身の思惑通りにことが運んでいるためか、シュナイゼルは笑みのままだ。 否、彼が余裕の笑みを浮かべていなかった時のほうが、珍しいのだろうが。 振り仰ぐように少女は彼を見つめ、そうして車椅子から軽やかに降り立った。 頭頂部を持って、ずるりと長い髪が剥がれ落ちる。 そうして現れたのは、淡紅色の髪だった。 「ご満足?」 とろり、とした半眼が、シュナイゼルを涼やかに見つめる。 男はにこりと笑顔を深めただけで、なにも答えなかった。 「ご苦労だった。アーニャ・アールストレイム」 「別に」 あなたの為じゃない。嘆息に似た言葉に、コーネリアがむっとした顔をするが少女は気にしない。 ドレスはともかく、首飾りを取り払えばそこに小さな機器が見て取れるだろう。 小型変声機は、なにもゼロのみの専売特許ではない。 「しかし、本当にこれでルルーシュは動揺しますか?」 ただ死んだと思っていた妹が、生きていただけなのでは。 不可思議そうな表情のディートハルトに、それは無いと断じるのがコーネリアとカノンだ。 「ナナリー皇女殿下の、兄君への信頼は本物だったと思うわ。私も何度か相談を受けたけれど、決まって"兄の前に出た時恥ずべき己で無いこと"を意識されていたようだし。そんなお心をご存じないほど、鈍い方というわけでもないでしょう。仮にもゼロ、人心掌握は、つまり他社への理解の深さのはずじゃなくて?」 「そう深く考える必要も無い。ルルーシュは、ナナリーをなにより愛していた。それは、私や兄上がよく知ることだ」 「つまりは利用しやすい、と」 率直過ぎるほどのアーニャの言葉に、再度コーネリアの柳眉が寄った。 生来、騎士道を貫くような武人の彼女はナナリーを人質に取るような矢面に立たせるような、直接的に利用するような手は取りたくないのだろう。 考えないようにしていたことを、えぐるように突きつけられれば人間誰しも不快感情に沸き立とうというものだ。 しかしそんな彼女の様子は無視をして、ぽい、と掴んだままだったミルクティブラウンのウィッグを放る。 「これは別に、ナナリーの意思を無視しているわけではないよ。それは、わかってくれるかな」 「あのメイドを人質にとって、ナナリー皇女殿下に協力を強制したのはあなた達」 「選んだのはあの子だ。我々は、国のトップに立つように生きることを強制された身分だからね。否と思うならば、他者になんと言われようと揺らいではならない。揺らぐ弱さが、いけないよ」 「人間らしい感情全部排除して、支配されるのは気に食わない」 「そう言えることさえ、君が強者だからだよ。ナイト・オブ・シックス」 にこやかな笑みを崩さない男に、一瞬にらみつけるような紅玉が光ったが無視をして少女は足にまとわりつくドレスを鬱陶しげに払いながら部屋を出ようとする。 どこへ? 穏やかにかかる声へは素直に、ナナリー皇女殿下のところ。と返す。 「あのメイドの様子も見てきておくれ。報告は怠らないように」 「………」 「返事はどうしたかな? 君もまた、選んだはずだよ。アーニャ・アールストレイム。この道を。ならば返すべき言葉はひとつのみしか、私は知らないが?」 「いえす・ゆあ・はいねす」 それでいい、とシュナイゼルがゆったりと頷く。 人非人ですこと。嗚呼怖い、と、棒読みでカノンが腕を摺り合わせた。 「現状がどうであれ、ナナリー皇女を助けて貰ったことに対しては、一言も言いませんね。彼女は」 「助けられた事実と、利用した事実を天秤にかけた時、人はどちらを優先すると思う? コーネリア、ディートハルト」 答えは既に見ているはずだろう? にこやかに言われれば、彼らは頷くしかない。 あれほどゼロに助けられていた、黒の騎士団。 けれど利用されていたのだと知るや否や、彼を排斥し排除に乗り出した黒の騎士団。 つまりは、そういうことであろう。 「国の支配、世界の支配、それらはあの子達に任せよう。我々は、その支配を管理してやればいい」 驕らないように見誤らないように見失わないように勘違いしないように。 管理していてあげよう。 「それが、年長者というものだよ」 シュナイゼルは微笑んで紡ぐ。 嗚呼、怖い怖い、と、カノンは本心から繰り返した。 *** アーニャはどっちの陣営に組するのですか。 ていうか、これあと三話で本当に終わるんかいな。(それ多分最大の禁句 |