魔女は半ば呆れ果てながら、落ち着きなくうろつく共犯者を見つめていた。 カメラの向こう側が此方を呼ぶのに、あと約束の時間まで二時間。 確実に予定通りに終わることはないだろうから、プラス二時間を見積もると言っていたのはこの男のほうだ。 だというのに、それより二時間も前にスタンバってて何がしたいというのか。 熱いチーズを器用に口に運びながら、見つめる金色はなにかとても哀れなものを見つめる様子だった。 決めなければならない大量の案件も、今日という日に被らせなかったのは流石の一言に尽きるだろう。 連絡があってから、彼はこの日を空けるために幾ばくかの無理もしていた。 けれど、そんな疲労の気配を露と感じさせずどこか生き生きしている。 魔女は半分ほど平らげて、それでもまだ余る時間に嘆息をつきながら口を開いた。 「お前、元気だな」 平素ならば、絶対に彼へ向かってなど言わない言葉である。 しかし今の共犯者を表現するならば、輝いているの一言に尽きるためこの言葉を使った。 仮面が外されているせいで、只管に上機嫌な様子が露である。 「当たり前だろう。こんな無粋な画面越しというのが気に食わないが、ナナリーに会えるんだ」 うきうきとした態度に、魔女は露骨なため息を吐いた。 いつもなら、不満そうにそれを見やる男だが今は気にもならないらしい。 むしろ、ソファの後ろに緑を置いて眼に優しくするべきかと考えている。 ナナリーの眼は見えないし、画面向こうの緑まで察せられることはないだろうよ。 言いたかったが、我慢した。どうせ、耳に入っても脳に届いていないのは明らかだ。 「一応、政策についての参考だぞ。ゼロ」 わざとらしく名前をそちらで呼べば、ようやく不機嫌そうな顔が魔女へ向いた。 それで良い、と、C.C.は思う。 馴れ合いたくなんて、ないのだ。 こんな嬉しそうな表情、知らなくていいとさえ、思っているのに。 自身の思考なぞ悟らせない横柄な態度で、C.C.は長い足を腕に抱えて男を見つめる。 ローテーブルの上には、ゼロの仮面がまだ来ない出番を待っていた。 「わかっているさ。そのための答えは、準備出来ている」 名誉ブリタニア人、イレヴン、及びブリタニア人の賃金の平等化。 どこからどう考えても、突飛な上に愚案でしかない。 ブリタニア人は、例え名誉であろうと自分より格下だと信じて疑わない人間と欠片でも同じものが出来るなど業腹であろうし、その不満の捌け口とされることがわかりすぎるほどわかりきっている名誉ブリタニア人は賛成しないだろう。 イレヴンからしてみても、そもそも正規雇用が少なすぎる。 案としては美しいが、どう角度と視点を変えても"きれい事"の一言で済まされてしまう内容だ。 そもそも、ナナリーは日本人から圧倒的に信用が無い。 これは、過日のナナリーが起こした行政特区の失敗からも明らかである。 最愛の妹の身を危うくするだけの案に乗ってやるほど、ルルーシュは愚かではなかった。 愛していると言って、ひたすらに何でも賛成してやることが愛ではないことを彼は知っている。 否、知ったというべきか。 彼女と自身が、違う生き物なのだと改めて思い知ったあの日から。 「それでも、味方をしてやるんだろう?」 「当たり前だ。今回は通信が傍受されている可能性が高いから、まずはあの子の至らない点の指摘と俺の立ち場と現状を明確化するだけだが」 訂正案と、それに関する見積もりくらいは出す。 言い切る男に、心底から魔女は感心した。呆れもここまでくれば愛しさに変わるのだろうが、むしろ彼女は感心した。 当たり前、ではないだろう。自分の忙しさをわかっていて言っているのか、体力皆無根性甲斐性なし。 罵ってやりたかったが、やめる。 まさかないだろうが、それさえナナリーに会えると舞い上がっているルルーシュにポジティヴ変換されたらやっていられない。 しかも、男が言うだけの内容で終わらないのは火を見るより明らかだ。 「どんな形であろうと、ナナリーがゼロを必要としてくれる。それだけで俺は嬉しい」 とろけるような笑顔に、最早魔女は苦笑しか浮かばない。 手を離されても、この男からは決して手を離さない。 裏切られても、この男からは絶対に裏切らない。 やさしくてやさしくて、泣きそうなくらい優しい魔王に、魔女は小さな声で謝った。 浮かれている少年は、小さすぎる言葉に気付かなかったけれど。 *** R2小説ネタです。もいっこあるので、書きたいです。 あぁもう本当にルルは優しいな………! |