いっそ清清しいほど、堂々とした態度で魔女は仁王立ちになり言い放った。
 弱音を吐くから耳を塞げ。
 唖然としたのはスザクだけで、ルルーシュは引き出しから携帯を取り出すとイヤフォンを繋げて耳に引っ掛けた。
 ほら。と言いながら、片方を差し出されてスザクも自分の耳に引っ掛ける。
 二人の様子を満足げに見やると、魔女は黄色いぬいぐるみを抱きしめて顔をうずめた。
 耳の半分はそのままだ、とか、イヤフォンは引っ掛けているが音楽は流れていない、とか。
 言いたいことは山とあったけれど、スザクは口を噤んだ。
 聞こうとした一拍前に、少女の姿をした魔女から弱い声が零れ落ちたせいである。
「………いちども」
 震えるようでありながら、抑揚は少なかった。
 ルルーシュは、なにも言わない。
 視線を向ければ、彼は白い紙を見つめていた。そこに、文章は一行も記されていなかった。
「いちども私のこと、生きてていいよ、って、言ってくれなかったね」
 息を呑みかけて、少年は止まった。
 彼は知らない。
 尊大な魔女の態度しか、知らない。
 当然だ。スザクとC.C.の接点はあまりに少なく、また短いものでしかないのだから。
「いちども私に、一緒にいこう、って、言ってくれなかったね」
 待っていることは、無意味だってわかってたよ。
 わかっていたんだ。
 それでも、私は。欲しかったんだ。
 伸ばしてくれる手が、欲しかった。
 ギアスによる誘導ではない、愛が。
 傍にいてくれる、ぬくもりが。依存ではない、共存をしたかった。
 それがどれだけ、高望みなのかわかっていても。
「お前達が本当に大切だったんだよ」
 V.V.、シャルル、マリアンヌ。
 お前たちのためなら、命を使っても良いと思えるくらいには。
 お前たちが大切だった。お前たちの理想に、夢をみた。
 死にたかったのは本当。もうこれ以上、生きているのが辛くてどうしようもなかったのも本当。
 それでも。
「お前たちは一度も、私と一緒に生きようと思ってくれることすらなかった」
 それは、私を更なる絶望へと叩き落すとわかっていたからでは、無いだろう?
 計画は最初から、私が死ぬことで動き出すものでしかなくて。
 つまり、お前たちの理想の世界に、私は死ぬことでしか触れられなくて。
 完成していた、シャルルとマリアンヌの二人にだけ優しい世界。
 自分もV.V.も、本当はいらなかったのではないかと、わかってしまった。
「なぁシャルル。V.V.は本当に、お前もマリアンヌも好きだったんだ」
 けれど彼の心は子供で止まってしまっていて。
 だから、置いていかれる寂しさには叶わなかった。
「なぁマリアンヌ。ルルーシュもナナリーも、本当にお前のことが大好きだったんだ」
 だから、ルルーシュは必死でお前の死の真相を暴こうとしたんだ。
 仕合せだったから。
 だからこそ、憎しみも悲しみも跳ね上がった。
「なぁ、私は本当に、お前たちが大切だったんだ」
 魔女が得た、ささやかな至福。
「でも、お前たちは」
 ほんとうに、わたしのことは、けいかくでしか、ひつようとしなかった。
 震える肩を抱こうとしたスザクの手を、ルルーシュが止める。眼光は、鋭かった。
 目を伏せて、もう一度見つめれば手が離れるけれど、その時には彼もまた少女を抱きしめようとはしなかった。
「一緒にいられた時は、確かに幸せだったんだ」
 しあわせだったんだよ。あいしていたんだ、このいのちがやくにたてるなら、うれしいとおもえるほどに。
 愛していたんだ。
 少女の声は、震えていた。
 けれど、彼女を抱く腕は無かった。それでかまわないと、C.C.は思う。
 聞いて欲しい弱音、聞いて欲しくない本音。
 どちらも等しく、世界の雑音でしかない。
 ただ、見捨てずに視界に収まるように居てくれるひとがいるというだけで。
 彼女は泣きたくなるほどに、幸福だった。



***
 この三人書きやすいなー。困る。
 マリアンヌ様、C.C.と友達なのに要約すれば「死ね」としか言ってなかったなー。って。


微炭酸ヒスノイズ




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