無駄かつ無意味に絢爛豪華な部屋。
 の、部屋が連なる宮の奥にひっそりとある、明らかに物置レベルの室内に、三人はいた。
 魔女は去年まで馴染みとしていた真っ白い拘束服に身を包み、皇と騎士はそれぞれ手慰みにチェスや読書に興じている。
 しみじみと、魔女はその二人を眺めやりぎゅう、と抱きしめたチーズくんの感触に酔った。
 視線に気づいたのか、スザクが顔を上げる。
 一見無害な彼の腹の底が、自分などより余程黒いことを知っている彼女は陶然と見惚れるような真似をしなかった。
「よくもまぁやるもんだ、と思っただけさ」
「なにが?」
「パフォーマンス好きのルルーシュに、付き合ってやることが」
「あぁ」
 言えば、即座にうなずくのだから彼もあれはやりすぎたと思っていたのだろう。
 視線を投げかければ、ふん、と軽くルルーシュは笑った。
「あの程度出来ない男に、ナイト・オブ・ゼロは相応しくない」
「よく言うよ。僕が殺されたら、君にあの槍が刺さったんだからね?」
「安心しろ、その前にギアスで全員統制下に置く」
「……それは言外に、あのまま刺されれば良かったのに、っていう発言だと理解するよ?」
「なんだ、珍しく冴えてるじゃないか」
 既にチェス盤に視線を戻しているルルーシュに、C.C.は呆れた表情をとった。
 本人たちは本気で言っているだけに、寒すぎる。
 以前より肌の露出が極端に減ったというのに、どうして鳥肌を立てなければいけないのか。
 理不尽に思って、チーズくんを抱きしめる。気分が少し浮上した。
「そういえば、ジェレミア卿呼び戻したんだって?」
「あぁ。この間の通信で、お前に言いたいことがあると言っていたな」
「なんだろう。フレイヤの爆心地でも、一応会話はしたけど」
 一方的に話しかけられることも会話というなら、あれも一応会話だろう。
 それに、KMF戦でのやりとりもあったか。
 思い返せば、ジェレミアが戦場に舞い戻ってからは断続的に繋がりがある。
 呟けば、ルルーシュが意地の悪い笑みを浮かべていた。
「なに?」
「いや、お前にゼロをやったのは成功だったと思ってさ」
「いきなりだね」
「ゼロとは、つまり無だ。裏切り続けの成り上がり者、っていう認識が世界に広まっていてこれ以上、どこにも行き場のないお前と違って、ジェレミアには選択を残しておいてやりたい」
 黒のルークをひとつ進めて、彼はやわらかいソファに体を預けた。
 皇帝の私室ですらない部屋の物置のくせに、調度品が良いのは当然だろう。
 痛んだ様子の無い艶やかな黒革を撫ぜて、うっそりと目を細める。
 赤い鳥の気配が、不快であることには変わらない。
 思いつつも、スザクはルルーシュから視線をそむけることは出来なかった。
「優しいよね。本当に」
「当たり前だろう。俺は、俺の愛する人々にならいくらだって愛を与える」
 それだけのものを貰ったんだ、当然だろう。
 笑う彼は、真実慈愛の表情だった。
 最愛の妹、ナナリー。
 ルルーシュ・ランペルージの弟になってくれた、ロロ。
 自分がすべてを奪い取ったというのに、忠節を変わらず誓ってくれたジェレミア。
 手を差し伸べてくれたユーフェミア。
 何度だって赦してくれたシャーリー。
 ルルーシュは、世界に愛があることを知っている。
 それは、突き放された遠い世界のことではない。零れ落ちてしまったとしても、永遠に手にし続けられないとわかっていたとしても、確かに一度は腕の中にあった世界だ。
「甘くて優しくて愚かで、ついでに童貞で。お前、本当によくやってこれたな」
「最後はまったく関係ない!」
「え、っていうかルルーシュって童貞なの?!」
「驚くところはそこかお前!」
 呆れたような魔女の言葉に、騎士が反応すれば魔王にして皇帝の少年は怒りを露にする。
 無論、三人にはわかっている。
 今の状態は、すべて嘘だ。
 スザクは、ルルーシュをユーフェミアの仇としてしか見られない。
 ルルーシュは、スザクに何度となく売られた事実を無かったことに出来ない。
 C.C.は、そんな二人を止めきることが出来ないとわかっている。
 全ては憎しみの湖を足元にした上で、薄氷の上に立っているだけのことなのだと。
 三人ちゃんと、全部、わかっている。
「寒いな」
「まったくだ」
「暖房入れようか?」
 戯言の下には、悪意と憎しみと愛。
 それが、ヒトのあるべき世界だと彼らは顔を突き合わせて笑いあった。



***
 あの、スザクの足はどうなってんですか。なんで足で刃の部分を折れるのあの子。
 スザクとルルは、利害関係で組めるならある意味最強だと思います。


穢れたアヴァロン




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