はい。とばかりに渡され、とりあえず悩んでみた。 見た目はフラッシュメモリーだが、それにしてはやや大きい。 全体的に黒だが、縁取りが紫であることから自分用に作られたものだと窺い知れる。 ひっくり返してみるが、やはりよくわからない。 否、これが何かといわれればわかる。わからないのは、何故こんなものを自分に渡されるのかということだ。 白というより、銀灰色に近い色で掘り込まれているのはKnigt of Zeroの文字。 「ほらほらぁ。早く行きましょうよ殿下」 「皇位はもうないから、その言葉は正しくない」 「じゃあ、ゼロさま? でも、数字にさま付けっておかしくないですか?」 「名前を呼び捨てればいいだろう。ジノだって、俺のことは呼び捨てだ」 「んー、それもボクとしてはあんまり。ヴァインベルグ卿は殿下と同じお立場ですが、ボクは所詮技術屋だし」 呼び捨てるのは、あまり良いものでもない。 言われて、じゃあジノを呼ぶときと同じようにすれば良い。と言い掛けて、ルルーシュはそれがどれだけの地雷かを思い返す。 ロイドからそんな呼ばれ方をしたら、気持ち悪くてどうにかなりそうだ。 へらへらと笑う男に、複雑な視線を送る。 厄介この上ない男へ、嘆息が漏れた。 「だからボクのことを、はやく騎士にしちゃえば良かったんですよぉ。そうしたら、こんなことから悩みあわずにすんだのに」 「俺がお前を騎士にしていたら、お前を解任してこの席についていたよ。無駄が二つも省けてなによりだ」 「無駄、ですかぁ? ボクは」 「お前ではなく、俺に騎士。というものがな」 守ってもらわずとも、結構。切り捨てるような、切り離すような口調に、ロイドが少しだけ目を細める。 そうしていなければ生きていけなかったことを、ロイドは知っている。 恐らく、シュナイゼルの次くらいには。 わかっているから、言葉は飲み込んだ。悲しがりたかったが、こんなことで悲しがっていたらそれこそ色んなものが駄目になる。 いつか彼の騎士になるためにも、ここは悲しむ場ではないことはわかっていた。 「この問題は、いつかの解決に期待するとして。まずはこっちです」 「だからいい加減、なんなんだ」 「え〜っとぉ。あの人と、コーネリア殿下と、オデュッセウス殿下と、セシル君とボクからのプレゼント?」 「いくつか聞き捨てなら無い名前が出てきたが、とりあえず最後待て。どうしてプレゼントに疑問符をつけるんだ、お前は」 「あっはぁ〜。いやぁ、だってぇ」 これ、殿下にとっては修羅道転げ落ちるためのものにしかなりませんもん。 言って、ゲージの電灯をつける。 黒と金に彩られたKMFが、おとなしく膝を折ってそこにはいた。 「フロートシステム完全搭載。ナイト・オブ・シックスのモルドレットとは比べられないけど、シュタルケハドロン砲を防ぐ防御力は世界最高峰ですよ」 マニュアルはこっち。 どさ、っとルルーシュの腕の中へ、紙の束が落ちる。 腕にかかる負荷に、思わず紙はつまり木であったことを改めてルルーシュは自覚した。 「操作方法、かなり殿下用にカスタマイズしちゃってるワンオフ機体なんですよぉ。っていうか、殿下みたいにアタマ使うひとじゃないとコレ無理」 操縦とか以前に、この機体である意味が無い。 にこやかな科学者へ、ぱらぱらとマニュアルへ目を走らせていたルルーシュの顔があがる。 表情は、若干うんざりしていた。 「おい、ロイド……」 「はぁい?」 「よくこんなもの作ったな。エナジー拡散率、自力計算って本気かお前」 「いやぁ。そっちに演算システムのメモリーを割いちゃうと、正直ほかへの負荷が大きくなるんで。出来るでしょ、殿下」 ちゃんと最新の機体情報は、自動で蓄積・バックアップされるようになっていますよ? なんでもないことのように言われ、一応は頷くがこれはない、と内心で呻く。 脱出装置がついているのが、唯一人間的な部分かもしれない。それ以外のところは、推して知るべし。 「拡散構造相転移砲……。よく開発許可が降りたものだ。相当、上からなにか言われたんじゃないのか」 プリズムを利用しての、拡散ビーム。 戦場では確かに有効な兵器だろうが、"ナイト・オブ・ゼロ"に持たせるには危険なシロモノだとわからないわけではあるまい。 本心から、膝を屈しているわけではないからこそ、今までKMFを与えられることもなかったというのに。 唐突に与えられたハイスペックな機体に、喜びよりも怪訝さが勝り語を漏らせば。 「え? 降りてませんよ?」 あっさり、否定が返ってきた。 「な………ッ?!」 「ボクらが受けたのは、あくまでも"ルルーシュ殿下を最低限守れるだけの機能を備えたKMF"であることの一点のみ。それ以外は、特になんのオーダーも入りませんでしたから、好き勝手にやってみましたぁ!」 「今すぐ軍病院へ行って、その頭の中身を綺麗にしてもらってこい!!」 高らかな宣言に、ルルーシュは即座に言い返す。 開発許可を得ていないということは、最悪この機体を開発推奨したシュナイゼル達まで翻意を疑われることになるのだ。 義兄や義姉を巻き込むことは、不本意以外の言葉が無い。 強くかぶりを振れば、大丈夫ですよぉ。と笑われた。 「なにがだ……」 「だってこれ、あくまでも試作機ですもん。実践に耐えられるかは、テストしてみなきゃ」 「こんなマニュアルが用意出来るくらい、しっかり作っておいてなにを」 「でもそれ、本職の軍人でも三割しか出力出せなかったんですよねぇ。特に絶対領域の演算処理は、ドルイドシステムと生身で張り合うだけの能力がないと駄目で」 そんな人間、ほいほいいるわけないでしょ? だからまだ、試作機。 にんまりと、笑うのはアリスを導くチェシャ猫のようなタチの悪さを滲み出す男。 「だから、あなたはこれに乗ってデータ集めに協力してくださぁい。専属チーム持ってないでしょ? ボクとセシルくんとで、協力しますんで」 特派がナイト・オブ・ゼロの専属チームとなるわけにはいかないから、個人協力の域を出ませんけれど。 個人的には、助力を惜しまないから。 言われて、ルルーシュの顔に浮かぶのは仕方ないと言いたげな、それでも優しい笑みだ。 「もし問題が起きたら、全部俺のせいだと言えよ?」 「いいですよ。覚えてたら」 全部、アナタのせいにしてあげる。 アナタに尽くしたいのも、奉じたいのも、捧げたいのも、すべてはアナタがアナタだから成せることなのだと。軍事法廷でだって、言ってアゲル。 声を潜めて言われれば、本当に馬鹿だとルルーシュはわらった。 とてもとても、綺麗に。 ひどくひどく、きれい、に。 *** 技術力が本編と辻褄あっていないのは仕様ですごめんなさいorz さりげなく色々危ういロイドさん。 |