たかが、十歳を数えた子供が、なにをと。
 彼をよく知らぬ周囲の人間は、嘲り笑った。
 彼をよく知る者は、あまりの決意に身を震わせた。なにも出来ない我が身を、これでもかと呪う。
 そして、突きつけられた皇帝は豪快に笑った。
「良かろう。その覚悟が、あるのなら」
 自らに強いた、修羅の道。
 流血と惨劇のみを約束された、永劫なる業の道。
「私は、言葉を違える気はありません」
 利用されるのは、真っ平だ。
 けれど、今の自分には力がない。圧倒的に、絶望的に。
 そのための力は、小さな身体に秘める知略しかない。
「皇位を返上し、私をナイト・オブ・ラウンズの一席に加えて頂きます」
 自分のすべてを利用して、構わない。
 彼女さえ守れれば、それでいい。
 他国へ送りこまれてしまえば、それこそ母の死の真相から遠ざかってしまう。
 最愛の妹、ナナリーの治療さえ、通り一遍で済ませられてしまう。それで、余計な後遺症など残ったりしたら。
 考えるだけで、ぞっとする。あの子はまだ、たったの八歳なのだ。
 自分のことなど、二の次で構わない。
 無傷で掬われてしまった命を、無為には使えない。
 自分には、守るべき妹がいる。そのためなら。
「お前に用意してやるのは、ナイト・オブ・ゼロ。名も無き席ぞ」
「名なら、自分で得ます。皇帝陛下、あなたはただ私がナイト・オブ・ラウンズに着くことを一言赦す、と言ってくだされば良い」
 足が震えている。
 がくがくと、虚勢を張っているのは誰の目にも明らかだ。
 飛び出してきそうなコーネリアを、シュナイゼルが制している。
 まっすぐに見つめてくる義兄の視線に、答える余裕は今のルルーシュには無い。
 ここで、自分が使えることを示さなければ。死んでしまう、ナナリーが。
 最愛の妹が。
 それだけのことが、頭を占めていた。必死だった。
「私を、いくらでも利用してくださってかまいません。ただ、ナナリーは。あの子は、今やっと病状が安定しました。あの子が、生むはずだったであろう利益の五倍を、私が生み出します。ですから、あの子は皇女として最高の治療を。私はいくらでも利用してくださって、かまいません。ですから、どうか」
 ナナリーだけは、見逃してください。
 隠れた言葉に、気づかぬわけもなかろうに。
「好きにしろ」
 小さく笑いながらの短い言葉に、周囲がざわめく。
 皇帝としての言葉だと、誰もがわかったためだろう。本気で、こんな子供を誉れあるナイト・オブ・ラウンズの一席に加えるつもりかと。
 漣のようなざわめきは、皇帝の眼光により静かになった。
 これは、決定事項なのだ。
 ナイト・オブ・ゼロの誕生。名も無き、亡霊の椅子。
「ビスマルクよ。お前がそれを連れていけ」
 傍らに控えていた、ナイト・オブ・ワン、ビスマルクに顎で示せば巌の男が僅かにうなずいて見せる。
 それでこの場は仕舞いだというように、皇族や貴族たちの間を悠然と去っていく男を見つめた。
 白いマントが、無言で着いて来いと告げている。
 小さな手足を必死で動かして、少年はビスマルクの後を付いて行った。
 背中に、義兄や義姉の心配そうな視線が当たる。
 本当なら、ちらとでも振り返って一礼だけでもしたかった。けれど、今は出来ない。
 見失ってしまいそうな白い外套を、追うのに必死だからではない。
 自分には、まだ何もかもが足りないのだ。
 名ばかりではないと、利用価値があるのだと、示し続けていかなければならない。
 そのためには、姉や兄には甘えられない。甘えた態度をとった途端、手のひらを返して着いたものさえ奪おうとするだろう。
 そして、ナナリーを利用しようとする。
 なんとしてでも、避けなければ。あの子だけは、守らなければ。
 覚悟は、彼から子供を取り上げていた。


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 唐突にはじめてみる。20話もなんも関係ありません。捏造上等。
 R2二話からのと、どっちが良かったかなー。違うパターンとして書くかもです。←


火を灯す子供




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