意外だな。
 目の前の優男が、そっと目元を緩めてロイドを見つめた。
 そう? 言われた科学者は、目元をいつも通りの緩さで小首を傾いで見せるだけだ。
 帝国の宰相は、鷹揚に首肯して見せた。
「あの子がいなくなって、一番壊れたのは君だからね」
 見つかって、駆けつけて行くものばかりだと思ったよ。
 言われれば、ぼんやりと彼はああ、と呆けた声を上げた。
「ゼロだと、確証も得られないまま足踏みをしていたボクが、駆け付けてもねぇ」
 我が君だって、喜ばれないでしょう。
 あの方の傍には、オレンジ君もいることだし。
 戦場では大して役に立つことのない、科学者だし。
 空を見つめて、へにゃりと笑えば、シュナイゼルは失笑した。
「愛しているのに?」
「それも、あなたにも言えること。愛してたのは、本当でしょう?」
 ただ同時に、同じくらいの想いと強さで、邪魔だと思っていただけで。
 愛していたのも、本当でしょう?
 力技で彼を、ゼロを、ルルーシュ殿下を、戦場から排そうとするくらいには、愛していた。
「まだ、生身のあの子を見ていないだろう?」
「いいんだよー、ボクは」
 薄暗い色が、ロイドの瞳に宿る。
 そういえば、ルルーシュが日本に送られる時もこんな目をしていた。
 絶望とか、切望とか、脱力感とか。
 一切のものを引き剥がした時に、人間はこんな目になるのかとシュナイゼルは密かに思ったものだ。
「かまわないのかな? このままで」
 ルルーシュと、敵対することで。
 かつて、主となって欲しいと願った靴先と、正反対の位置に立つことを許容したままで、構わないのかと。
 問いかけられれば、ロイドは笑う。
 拗ねるし、怒るし、笑うけれど、どうにも彼は、八年前から薄っぺらくなってしまった。
 自覚があるのか無いのか、難しいところだ。
「いいよ」
 答えは、簡素だった。
 一言で済ませた言葉が、本心だと知れば宰相の瞳が細まる。
「理由を、聞いても?」
「別にいいけど、面白くないよ?」
 問い返されれば、ではなおのこと聞きたいと返す。
 悪趣味だとは、笑われなかった。
 付き合いの長さだろうか。此方の答えは、双方どうでもいいので追求無く終わる。
「あの方が、世界に縋っている姿を見るのはもう、ね。正直、見たくないかなぁ、って」
 やさしい世界になりますように。
 妹が笑って穏やかに過ごせる世界になりますように。
 自分たちが、いつ来るかもしれない迎えに怯える日が来なくなりますように。
 祈って、願って、世界に縋って、彼は行動を起こした。
 きっと彼は、止まれない。
 最大の理由がいなくなって、死ぬことはできてもその願いを手放せない。
 手放した瞬間、彼のアイデンティティは崩壊の一途を辿るだろう。
 主にと。
 生涯の、永遠の主にと、望んだのだ。
 それくらい、わからないでどうする。
「だから、願いとかそーゆーもの全部、押しつぶしてあげようと思って」
「………なにで?」
 理由は、それだけ。
 短い言葉に、小さく間を置いてからシュナイゼルは問いかける。さらりと、金の髪が揺れた。
「そりゃあ勿論、ボクの愛で?」
 薄氷の瞳は冷静だ。
 熱にうかされていたのは、あの紅蓮の機体を前にした時くらい。
 ゼロがルルーシュであると知っても、態度は変わらなかった。
「いいんだよ。シュナイゼル」
 彼は笑う。
 歪に、とても、真っ当に。
「ボクは我が君を愛していた頃になんて、戻らなくていい」
 低く呟かれた声音は、たぶん、置いていかれたあの日だけが知っている。
 連れて行ってと、言えなかった自分が、今更だ。
 輝いていた笑顔を、もう思い出すことも出来ない自分が、なにを言えるというの。
 願いはすべて、遠いあの日に踏みにじられたのだから。


***
 公式で、心が壊れちゃってる発言のロイドさんにもう心臓ブチ抜かれすぎな私。
 なにあの三十路………!! ばっかもうこれ以上惚れさせないで………ッ!


急カーブ症候群




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