ぎし、り、という音を聞いた。何事もなくそこには一人の少年がいた。名前はルルーシュ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、ルルーシュ・ランペルージを名乗る少年。 そしてゼロ。さいあくの友達、最高の敵、あまりにも卑劣で下劣な手段しか使わない、自身の敵。敵にして、自分の命を幾度となく救った相手。自分の信念を、幾度となく歪めた相手。 自分の主を殺した相手、自分に生きろと呪った相手、はじめての友達、アッシュフォード学園で、結局友達と名乗ってくれた優しさを思い出す。そう、思い出す。そういえば彼が優しかったことなど、忘れていた。 忘れていて当然だった。何故なら彼は、ユフィを殺したのだから。そんな相手が、目の前にいる。自分の下にいる。自然と腕が動いた。圧し掛かった自分の動きを、ルルーシュは不思議そうに眺めている。 純粋な瞳で、不思議そうに。腹のそこにぐらぐらと熱が宿った。どうして彼がこんな綺麗な瞳をしているのか、不思議だった。自分は、父親を殺したのに、彼ら兄妹に死んで欲しくなくて、父親に間違った道へ 進んで欲しくなくて、父親を殺して汚れたのに。どうして彼は綺麗なのだろう。きれいなものを知っているとばかりの、表情なのだろう。胸にまでせり上がってきた感情に蓋をすることも出来ず、スザクは唐突に 手へ思い切り力をこめた。軍人として鍛えられた人間の、乾いた皮膚がルルーシュの首に食い込む。ぎしぎしと、ぎりぎりと、込められていく手の力。彼は抵抗した、それにさえ腹が立った。生きたいとでも言う 気なのか。自分は、俺を死ねなくしたくせに。俺の信念を、歪ませ続けてなんの反省もないくせに。ぎりぎりと、ぎりぎりと、首を絞めていく。ルルーシュの爪が、抵抗するようにスザクの手の甲に立てられる。けれど スザクは構わなかった。むしろ、その小さな抗いさえ鬱陶しい。バタつかされれば、振動がスザクを突き上げた。それさえ煩わしい。どうしておとなしくしていないのか。自分の思い通りにならない相手が、ひどく厭わしいと同時に、 自分の願うとおりになってくれるはずもない存在だと意識のどこかで気づいている。ごほっ、という声に似たものを上げて、ルルーシュは一際跳ねた。酸素の塊を吐いたことで、さらに抵抗が強く、けれど断続的なものに変わる。 気力のみで、最早体力が残されていないのは明白だった。愉悦が口の端を彩るのを、スザク自身も感じる。白い手が、震えるように彼の手を掴んだ。どうして。紫電の瞳が問いかけている気がする。本当にそう言いたいのかなど、知らない。 あくまでスザクの予想であり、思い込みでしかない。けれど楽しくなった、瞳に陰りが見える。もっと楽しくなった。手に力を込め続ける。ぎりぎりとぎりぎりと。引っかくようにして、指先が手首から離れた。手の力を緩めずに眺めやれば、ひくひくと痙攣している。 苦悶の表情は美しかった。乾いた唇を、熱い舌先で濡らす。時折薄く開かれては、絶望かそれに類する表情を浮かべる。顔の色に変化が来たしてくる。白磁の肌が、妙な風合いに変わっていく。白い肌と薄く色づく頬の美しさを知っていただけに、この変化は スザクの望むものではなかった。だが、まぁいいかと思い直して力を緩めることなく彼の首を絞め続ける。何事か言おうと、ルルーシュがした。けれど、彼の精神力もそこで終わったらしい。震える色を失くしかけた指先が、スザクの袖口を甘く掴み、すぐに解けた。 意識が途絶したのか、ガクリと首に力の入っていない彼の首を、絞め続ける。膨らんだ血管を流れる血の動きを、手は未だ感じていた。この感触がいけないのだと、無性に思う。だからこれが終わるまで、この手を解いてはいけないのだ。どこからか湧き上がる 義務感に、スザクは違和感を覚えることはなかった。暴れていたことが、嘘のようにルルーシュは静かだ。顔の色が、赤くなり青くなり、土色のようだが騙されてはいけない。彼は嘘つきで、自分は何度も彼に騙されたのだから。だからこれも演技かもしれない。 そうだ、ナナリーさえ欺くことを良しとした男なのだ。この程度、軽く嘘として扱えるに違いない。論拠のわからぬ確信は鮮やかにスザクの胸の内で花開いて、手に一層の力を込めさせ。

 そこで、はじめて現状を意識した。

 

***
 書き方を変えるというか、わざとこういうやり方にしてみたかったのですが。なんというか、うん。病んでるね。(私が。


ラウリエルの遺言




ブラウザバックでお戻り下さい。