ぽつりと零された、精彩の欠いた声音にカレンは体温がごっそり持っていかれる気分を味わった。 打ちひしがれている少年と、人が変わったかのような魔女。 扉の前で、やきもきとしている少女。 しかし、そのどれもが目の前の彼を正気づかせることは出来ないと思っていた。 一度。ナナリーとの相対してしまうことを選んだ時は、自分が引っ叩いてなんとか出来た。 けれど、今それをやれと言われても無理だ。 死んだように、覇気のなかったルルーシュを見るのは二度目だが、先との比ではない。 「なんで、生きてるんだ。俺は」 嗚呼、死ねばいいのか。 ふらりと立ち上がって、テーブルの端に折り紙などと一緒に放置されていたハサミを手にする。 はっとした表情で止める前に、魔女だった少女と少年が慌てて彼の体にしがみ付く。 「落ち着いてください、ご主人様!!」 「待って兄さん!!」 「うるさい! 黙れ!! どうしてお前たちが生きていて、ナナリーが死ななければならない?!」 「っきゃあ!」 乱雑に少女を扱う様を、カレンは始めてみた。 この二人は、いつだって対等に肩を並べて憎まれ口を叩き合っていた。 だがそれでも、彼が暴力を振るうことはなかった。 「生き返らせろ。ナナリーを生き返らせろ生き返らせろ生き返らせてくれ!! 俺の一番大事な存在なんだ、俺の命なんていくらでもやる、俺の矜持も能力も命も全て使えばいい、利用すればいい、だからナナリーだけは返してくれ! 俺にはあの子しかいないんだ!!」 生きて。 生きて、しあわせになってくれるなら。 いつか、しあわせになれる日がくるとするなら。 それでよかった。 けれど、爆縮現象が起こったあたりは、きれいに窪んでいて。 彼女の残滓ひとつ、見つけることはかなわなかった。 蹴り飛ばされるのを受身ひとつでなんとかいなして、ロロが手近にあったハサミを自分の手の中に隠してしまう。 恨めしい視線を飛ばすルルーシュへ、カレンは意を決して対峙した。 「っ落ち着きなさい!」 「黙れ! カレン!!」 「ルルーシュ!!」 平手が、彼の頬に炸裂する。 けれど瞳に、正気が戻ることはない。 「今が、どんだけ危ない状況下にあるかわかってるでしょう?! ゼロ!!」 「………ッッ!!」 「私言ったわね?! 騙し抜いてくれ、って、日本独立をさせてくれ、って! 言ったわね?! あなた、それに頷いたじゃない! ゼロとして、戻ってきてくれたじゃない!! 責任を果たせ! ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア!! ………アンタばっか、ナナリーちゃんが死んだこと悲しいと思ってんの………?!」 どれだけ、捕虜でいる間融通利かせてもらったと思ってんのよ。 どれだけ、ただの会話で救われていたと思ってんのよ。 ナナリーちゃんを支えにしたのは、アンタだけじゃないのよ。 短かったけど、ルルーシュがナナリーを守ってきた間よりずっと短かったけど、確かに自分だって彼女に救われた。 そんな自分が、悲しまないとでも思われているなら業腹だ。 「ナナリーが……」 「ねぇ、本当に死んだの。ほら、神根島へ飛ばされた時みたいに……」 「………わからない。だが、アレはV.V.の仕業だったという線が強い。奴はいない。コードを持つのは、別の人間だ」 そして皇帝が、ナナリーを生かす理由がわからない。 ゼロとルルーシュが結びつかなければ、若しくは違ったかもしれないが。 先日の一件で、既にナナリーに生餌としての価値は失せている。 「どうして………」 つぶやく声は虚ろだった。 膝を崩す彼に、かつてC.C.だった少女はおろおろと視線を彷徨わせ、ロロは殴られ蹴られた身体を支えながらそれでも携帯についたロケットにしがみ付く。 カレンとて、立っていられなかった。 けれどこの後には、いい加減不信感を持った幹部たちが集ってくる。 ジェレミアのこともある、いい加減、不信感は最大のはずだ。 藤堂までも、朝比奈が死んだ衝撃で強い不信を募らせている。 どうしてこんな世界が、まだ続いているんだ。 ナナリーは、死んでしまったのに。 呟かれる声を振り払いたくなりながら、カレンは立ち尽くしていた。 同じ思いを、自分たちは多くの者にさせてきたはずだ。 それが、戦争だから。 奪い返すために、戦って、殺してきた。それは、否定なんて出来ない。 けれど、目の前にすれば一層のこと痛みが増す。 傲慢だとわかっているけれど、ルルーシュを見つめ続ける強さは今の彼女に持ち合わせはなかった。 敵ならいくらでも殺せる。 けれど、これは。 焦れた少女からの、扉をたたく音が聞こえる。 開けてはいけないとわかっていても、誰かに助けを求めたい。 室内は、重く苦しかった。 *** 私はナナリー死んでいる、もしくはギアス世界は仮想世界であり、そこから弾き飛ばされた。を予想します。 ところで、なんでアーニャはあの場でショックイメージを喰らったのでしょう。 |