目の前にいる男、否、少年はルルーシュと名乗った。 少女は名乗ったが、彼は切なそうに綺麗な顔をゆがめながら、知っていると頷いた。 知っているはずが無いことになど、少女は気付かなかった。 老獪でありながら、賢明であった少女はかつて魔女と呼ばれていた。 けれど少女は、それを知らない。 その魂は、いっそ哀れなほどにか弱い少女に立ち戻っていた。 「ならば俺はお前を守ろう」 弱者全ての味方である存在、それが黒の騎士団。 それがゼロだ。 この女は、自らの共犯者ではもう、なくなってしまったけれど。 だからといって、守らないという選択肢を思い浮かべることすら少年は考えもつかなかった。 だから、少年は誓うのだ。 守ろうと。死に急いだ少女。 愛されたいと願った少女。 本質として、愛されるべき少女。 「なぁ、―――」 少年は、少女の名前を優しく口ずさむ。 脅えるようにしながらも、それでもチーズ君を抱きしめて眠っているのはどういった冗談か。 今にも琥珀色の瞳を開いて、悪いものでも食べたのかなどと問い掛けてきそうな女だが、最早それが叶わぬことをルルーシュはよくよく理解していた。 そして彼は、彼女を魔女に立ち戻らせる気など毛頭無かった。 二人乗りであったガウェインの機能は、蜃気楼に一人乗りでも十分活用出来る程になっている。 KMFの腕は並より上のため、その腕は惜しいがそれでも本来ならば戦うことも出来なかった彼女を再び戦場へ舞い戻らせる真似もしたくはない。 守るのだ。 ちゃんと、ちゃんと、今度こそ。 最愛の妹は、守りきれず今はブリタニアの庇護下にある。 それは、自分がナナリーの本質を見抜けなかったから。 ナナリーにだって、きちんと自分が歩むべき道を決める権利を持っていたのに、そんなことにも気付かずにいた自分。 彼女にだって、心はあったのに。 人格を無視しての行動は、離れ遠くで見守るということで決着がついた。 執政者として優秀なのかどうかは兎も角、エリア11の治安は黒の騎士団がいなくなったことによって格段に落ち着きエリアとして昇格が臨めるという。 日本という国を取り戻す者からしてみれば、そんなものと唾棄すべきことかもしれない。 しかし、実際エリア11に住んでいる者からしてみれば、エリアの昇格に伴う制限の緩和は魅力的なはずだ。 好きだと気付いた、シャーリーは守りきれず死なせてしまった。 彼女の行動力を、わかっていなかった。 思い返せば、ひどく錯乱していたところが諸所あったのに自分に手一杯になっていて気がつけなかった。 彼女は、赦してくれたのに。 父親を殺してしまったのに、記憶を二度も操られたのに。 それでも、自分のためになにかをしたいと、望んでくれたのに。 ロロの自分に対する偏愛を、見抜けなかったこともある。 シャーリーの強さを見誤った、特にそこを押して彼をこちら側に引き込んだからとはいえ、ロロの家族に対する偏執を見誤った。 そのために、シャーリーは死んだ。 だから、今度こそ。 ルルーシュ・ランペルージを、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを、ゼロを、知ってくれていた、魔女の本質が、これほどか弱く、小さく丸くなって怯えるのだとするなら。 守るのだ。 今度こそ、なにも見誤らないように。 「あ……、ご主人様………?」 うつら、と目を覚ました少女に、ルルーシュは切なく失笑する。 この感情が、かつて魔女とされた少女のギアスによるものでもなんでも構わない。 「なんでもない。それよりも、俺のことは呼び捨てて構わないと言っただろう?」 「そんな、ご主人様を呼び捨てるなんて………」 起き上がろうとする少女の肩を柔らかく押して、ベッドへと戻した。 居心地が良すぎて、逆に慣れぬのだろう。 ベッドの上で身動ぎする少女の髪を、やさしく撫ぜる。 「もう遅い、寝ろ」 「………ありがとうございます。明日は、水汲みを頑張りますから」 「しなくていいさ、そんなこと」 「え、では、馬の世話ですか」 「馬はいない」 「え、え、え、っと……」 出来ることは、そんな程度で。 おろおろとしだした少女の瞳を、ルルーシュは優しく手で隠した。 「俺を主人というなら、お前は寝ていろ。―――」 ひどく静かに名前を呼んでやれば、はい。とか細い声をあげて少女は眼を伏せた。 共犯者の魔女は、もういない。 鮮やかに冷笑していた女は、もういない。 どこにもいない。 嗚呼、なんて、孤独の道。 それでも、守りたい者がこの世にいる幸福。 *** しぃちゃん(記憶なくなった、よわよわC.C.様を当サイトではこう呼びたいと思っております。)に、庇護欲高まりすぎました。 えぇ勿論この後ルルーシュは床っつーかソファで寝ますとも。えぇ。 |