枯山水というには無理のある、荒廃した武家屋敷。 そこに、するりと赤い影は器用な身のこなしで降り立った。 既に空の色は騒々しい青から黙り込む暗澹色へと、相貌を変えている。 欠けた太陽とでもいうべき弓張り月は、彼女の影さえ赤く残していくかのようだった。 「怪我した、って聞いたけど?」 縁側に腰をかけ、眷族からいくつかの報告を受けていたらしき少年に問いかけつつ、天井から一回転で目の前に現れる。 しなやかな四肢に生えているのは、明らかに獣の耳と尾であり、彼女が人外であることを教えていた。 「大丈夫なの。ルルーシュ」 言われた少年が、着物の上から横腹を撫でさするような動きをしつつ顔をあげる。 きぃ。高く啼く蝙蝠に、彼は穏やかに笑って見せた。 「この程度」 「どうだか。あなた、本当に体力ないじゃない」 「……それは関係あるのか」 「さぁ? 私みたいに、走って逃げるわけじゃないけど、霧になったりって、体力いるんじゃないの?」 ぐさりと突き刺さる言葉に、ルルーシュは黙り込んだ。 彼の様子に、思わずといった体で楽しそうに耳がぴくぴくと動く。 「どこの国でも大変ねぇ」 「別に、そうでもないさ。東の御大は、俺たちに寛容だしな」 元より異国の人外。追われることには慣れている。 そうと言いたげな彼に、カレンは肩を竦めて隣へ腰掛けた。 「吸血鬼って、もっと煩いかと思ってたわ。日本の鬼は、乱暴だもの」 「そんな品のない真似、俺たちはしない」 この地の吸血鬼はどうだか知らないが、俺たちは夜の貴族を自称するほどなんだ。 ふいとそっぽを向く彼に、尻尾がぱたぱたと楽しげに動いた。 猫娘、と呼ばれる妖怪である自分が、彼に出会ったのはもう数十年も前の話だ。 既にこの一帯は妖側の瘴気が強く、人間は近づかない。 だというのに、人にそっくりなモノがこの屋敷に住み着いたと聞きつけたのがはじまりだった。 「カレン、お前こそ大丈夫なのか」 「私?」 「スザクと、また喧嘩をしたと桐原老人に聞いた」 「〜〜〜アレはアイツが悪いのよ。それにルルーシュ、いい加減、私の名前くらいちゃんと発音して」 私はカレンじゃなくて、花蓮。 どれだけの付き合いだと思っているの。 憮然として言っても、ルルーシュも困る表情だ。 本人としては、言っているつもりなのだろう。彼女としてもわかっているため、これは型どおりの文言に過ぎないのだが。 いわゆる、会話の上でのオヤクソク。というやつだ。 「犬鳳凰如きがうるさいのよ。キャンキャンキャンキャン。アイツ本当は犬神とかなんじゃないの」 そっちのほうがまだマシだと言わんばかりの様子に、ルルーシュか苦笑する。 猫と犬の敵対関係でもあるまいに、カレンとスザクの相性はあまり良くない。 自分以上に付き合いの長い彼らの反目は、時折目が余るものであり東の御大と呼ばれる桐原も苦心していた。 「あまりそう言ってやるな。いざという時、実力者のお前たちが反目しあっていては他の力の弱いアヤカシが困るだろう」 「……わかってるけど」 なにやら納得いかぬ、という顔の彼女には、まだ時間が必要かとルルーシュもまた苦笑を浮かべる。 アヤカシとはいえ、百鬼夜行に名を連ねられるような存在はまだ実力者といえるほうで、小豆洗いなどを例に出すまでもなく人間にもアヤカシにも実害皆無なアヤカシも多い。 だが、人間は理解の出来ぬ存在はとにかく恐れ、排除しようとしてくる存在だ。 また、この土地はひどくアヤカシにとって暮らしやすい地脈をしており、自分たちのように穏便に住むだけを理由としない異国のアヤカシも虎視眈々と狙っている場合が多い。 「頼りにしているぞ、特攻隊長」 「なんか気にかかる言い草ね、それ」 言われども、そう悪くもないような表情でカレンは縁側から一拍で跳ねると庭先でくるりと回って見せた。 軽やかな動きに、夜色の髪をした吸血鬼も微笑む。 「あなたは私が守ってあげるわ」 ピン、と張った猫の耳が一度動いて、誇らしそうに彼女も笑った。 月を背景にしていても、その笑顔だけは鮮明だ。 *** ルル:大陸からやってきてた吸血鬼 カレン:猫娘 スザク:犬鳳凰 桐原:サトリ(考える必要ない。っていう でした。すいません、正直カレンは猫娘以外想像つかんかったー……orz |