魔女、国内ではその予言の的中率の高さ故に。
 そして、この宮廷内では皇帝からの信用度の高さ故に。
 二つ名を魔女、とされる女は、ふかふかのクッションをいくつも敷き詰めたソファの上で怠惰に寝転がってピザを食べていた。
 何故こんなところでジャンクフードが、と思われるかもしれないが、素材も粉から厳選されて作られた一級品である。
 惜しげもない様子で舌鼓を打っていれば、二つ目の廊下と繋がっている扉がゆっくり開いた。
「珍しいな、お前が私のところに顔を見せるなど」
 寝そべったまま、なにか用かと問いかける姿はひどくしなやかな獣を思わせる。
 だが、言われたほうはゆるく被りを振るうだけで、疲れたように女の斜向かいに立った。
「どうした、ルルーシュ。マリアンヌではなくお前が来るとは、余程だろう」
「ふん。お得意の予言で、俺の用事も言い当てられないのか」
「おやおや、私がお前の童貞を捨てる日を予言してやると言ったら、真っ赤になって全力で拒否をした坊やと同一人物とは、到底思えぬ発言だな?」
「童貞は関係ないだろう!」
 皮肉をたたいていたルルーシュであったが、即座に切り返されるそれに勢いこんで反論した。
 魔女が、楽しげに笑う。
「それで? まさかマリアンヌに、私の様子を見て来いと言われたからでもあるまい。どうした?」
 ちらと視線をあげながら、それでも一心不乱にピザを食べる姿に少年は肩を落とした。
 何故俺がこんな、などと、ぶつぶつ言っているが彼女は気にした様子も無い。
 そもそもこの二人、口を開けば皮肉の応酬だが、これで存外相性は悪くないのである。
 真実仲が悪ければ、互いの語彙力と容赦の無さである。
 相手が再起不能になろうと、美学を持って口で叩きのめす。
 そうしないのは、やはり二人の仲が然程悪くないという証明に他ならないのだ。
「ふん、どうやら予言の的中率も落ちたようだな。そろそろ引退すればどうだ、C.C.」
「言ってくれるな。政に口を出してはいない。この間のアレンドル領での暴動も、誰の予言のおかげで最低限に済んだと思っている」
「予言の的中率の高さを誇るなら、今度はもっと早くに夢を見ればどうだ。起きてからでは、少なかろうと被害は出るんだ」
「起きないことの予言は出来ん。起きたからこそ、変えるという事実が発生するのさ。起きないうちから起こさぬように走っては、世界に矛盾が走るんだよ」
 そんなこともわからないのかと鼻で笑われ、苦々しい表情をルルーシュは浮かべた。
 実際、彼女の予言とその的中率はたいしたもので、大きなものは近年あまり無いが小さな暴動や天候の崩れによる被害は彼女のおかげで大きな被害になることなく防がれているといっても良い。
 今回のことも、アレンドル領内で起きた暴動は他国の干渉によるものであり、何日放置しておけばどれくらいの被害となるか、を、まるで見てきたかのように彼女が皇帝に告げなければ軍が動くのが遅れ辺境警備隊には甚大な被害が出たであろうことは想像に難くない。
 魔女の予言は外れない。
 そのことで、魔女C.C.は他国からの間諜を疑われ、ほぼ自らの宮に軟禁されているか序列の高くはない庶民出の皇妃マリアンヌの宮にいるかのどちらかという制限を受けていた。
 だが、むしろ動くことがなくて楽だとばかりに彼女は常に皮肉を入り混ぜた笑みを浮かべている。
「母上が、マドレーヌを焼いてくださったんだ」
「なるほど。それは美味そうだ。ピザのデァートに丁度いい」
「お前……、母上のマドレーヌとピザを同一に並べるな」
「なにを言う。ピザこそ至高の食物だろう? トッピングを変えるだけで、無限の味わい。生地への工夫で、同じトッピングでもまた変わった風味を味わえる。おまけに、野菜も肉も魚も同時に味わえるんだぞ」
「野菜はほとんどトマトソースだろうが」
「なにを言う。和風ピザにネギは外せん」
 きっぱり言い切る女に、ルルーシュは心底からため息をついた。
「マリアンヌの入れるカモミールは、風味が私好みだ。今から楽しみだが、今日のミントティーもなかなか良い色をしている」
 傍らの山と積まれたクッションから、黄色いぬいぐるみを手にすると抱きしめる。
 くたりと力なく折れるぬいぐるみの名前を、チーズ君といった。
 彼女どころか、母まで気に入っているのを知っているだけに、余計なものを持ってくるなとは少年は一言も言えなかった。
「さぁ、行くぞ。ルルーシュ。マドレーヌに、スコーンが焼きたてとあっては私も遅れるのは聊か心苦しい」
「スコーン? いや、それは作っては……」
「シュナイゼルとクロヴィス、二人の坊やも増えては、マドレーヌだけでは足りないだろう? 昨日私が言っておいてやったのさ」
 まだまだ甘い。
 ふふん、と笑って、急げと言う頃には魔女は既に自室の扉近く。
「うるさい。一人で先に行くな、勝手な女め」
 憮然とした表情のままに言えば、目の前を歩く彼女がくるりと振り向く。
 ライトグリーンの髪が揺れ、笑う瞳には悪戯と意地悪の混合物。
「当然だろう。私はC.C.なのだから」
 お決まりの台詞の後には、急げよ童貞坊やという、なんとも変わらぬ口である。



***
 アンケート一位。
 皇族設定+C.C.様でした。
 C.C.様は、預言者として国の中枢の近くにいますがそれ故忌避され、マリアンヌ様一家とその周辺で仲良しの兄弟たちとしか接点がない。
 とかそんな感じでした。
 アンケートご協力、ありがとうございましたー。


アカシャの陽だまり




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