赦せないことなんてないよ。 それは、スザク君が赦さないことなんだよ。 赦せないことなんてない。 私は、ルルをもう赦してる。 嗚呼。 これで僕と君は、対等だ。 シャーリー・フェネットの葬儀は、とても密やかに行われた。 いつか喪服だった少女は、ここにはいない。 彼女は棺の中で、眠りについている。 美しく、安らかに、永遠に。 学園を離れたミレイも、仕事を蹴り飛ばす勢いで駆けつけた。 ニーナに連絡はいったが、彼女は本国のため来ることはかなわなかった。 ただ、スザクは来た。 その死を知ったナナリーもまた、駆けつけたがったが彼女の立場がそれを赦さなかった。 ナナリー・ヴィ・ブリタニアは、エリア11の総督である。 エリア11はテロの活発な地域であり、ひとりひとりに慰問などしていれば到底手が回らない。 だから彼女は、出来ることをした。 フェネット夫人へ、"この度の不幸は"からはじまる短い手紙を書き出す。 駆けつけることが出来ない彼女は、そうしてしか笑っていたであろう彼女の死に触れることは赦されなかった。 「………スザク」 ひくいひくい声が、スザクを呼んだ。 沈痛にして、沈鬱。 近頃はとみに優美かつ優雅な姿勢でしかなかっただけに、その落ち込み具合はリヴァルでさえ手出しの出来ないものだった。 霧雨がしっとりと、黒髪を落としている。 「………」 「何故だ」 「………」 「何故、彼女があんなところにいた」 「………」 「何故、お前は傍にいなかった」 「………」 「誰かに任せようとしたのか。シャーリーの行動力を考えなかったのか。どうして一人でテロ行為とも取れる場所に、あんな」 「車で待機するよう、指示は出した。でも、どうやらその手を振り払って行ってしまったらしい」 「……ハッ……俺のせいか………」 スザクは言葉を閉ざした。 ルルーシュがいると思ったから、彼女はあのモールに戻った可能性は非常に高い。 嗚呼、なんて。 「………だいじなひとを、失ったんだね」 「………もう誰も、失いたくなかった」 「君は誰を、失ったの」 誰も失っていないはずだ。 ルルーシュ・ランペルージの父母は昔に他界している。 ロロ・ランペルージは健在で、彼の傍でずっと笑っている。 それだけだ。 それだけの、はずだ。 だから、誰も失っていないはずなのに。 あの時の言葉も、今の言葉も、可笑しい。 矛盾が生じていることくらい、スザクにだってわかった。 「茶番だな」 「そうだね。三流以下の茶番だ」 「喜劇にもならない」 「そうだね。開始五分で幕が相応しい」 「………なぁ、スザク」 「なんだい?」 「一度目、シャーリーの記憶をギアスで奪った時、俺は願った。生まれ変われたら、もっと普通に、もっと平和に、もっともっと、穏やかに」 出会って、恋をして、触れ合いたかった。 心に、やさしい記憶を築きたかった。 「手が」 「え?」 「真っ赤になったのは、何度目だろうな。崩れ落ちた母様の血痕を触れた時、クロヴィスを殺した時、シンジュクで、サイタマで、戦争を起こした時、ユフィを、殺した時」 もう何度目だろう。 この手の赤は。 けれど、何度だってこの手の血は鮮やか。 「彼女は記憶がなくても、あっても、俺を好きだと言ってくれた。生まれ変わっても、と、願ってくれたのはシャーリーもだった。……だが」 君を抱きしめるのは、きっと無理だ。 君が赦してくれていたとしても、君が何度だって俺を抱きしめてくれるとしても。 君の血で君を汚した俺を。 俺は赦せない。 赦すことが出来ない。 例え君が、赦してくれても。 「ルルーシュ。僕は、君に大切なひとを奪われた。君が抱く憎しみ、それが僕が君に抱く憎しみだ」 わかってくれたかい。 平坦な声に、引きつった口元がスザクへ向く。 「嗚呼、本当に。現世は地獄とはよく言ったものだな」 赦せないことは、世界にたくさんある。 赦されないことは、きっと世界にひとつもない。 霧雨は降り続ける。 振り払うことも出来ない、罪のように体にしがみ付く。 *** シャーリーといい、ルルを好きになる女の子は寛大すぎるぞオイ。と思いました。 うーん、実に恋する女の子らしく盲目かつ傲慢かつ純粋かつ純真なのだろう。ていうかEDに止めさされました。orz |