居合わせたのが、偶然だったのか。 それとも、仕組まれたことだったのか。 さもなくば、運命だとでもいうのか。 アーニャには、興味が無い。 皇帝に、第二皇子シュナイゼルが謁見を申し込む。 このこと自体に、なんら可笑しなことは無かった。皇帝が本人であるかどうかさえ疑問だが、シュナイゼルは"皇帝"に報告出来ればそれで良かったし、"皇帝"とてどんなルートを辿ろうとシュナイゼルより報告を受けられればそれで良かった。 故に、二人の会話はどこも訝しがる必要など無かった。 ただ、ナイト・オブ・セヴンの存在さえなければ。 無論皇帝の騎士である、枢木スザクである。 以前彼が所属していたのは、軍部の中でも一際異彩を放っていた通称特派であったし、特派はシュナイゼルの肝入りだ。 現在スザクが抱えている、という形をとっている研究メンバーは全員特派であるのだから力関係が逆転したと思えば(それだって大事だが)大した驚きは無いかもしれない。 なにしろ、未だに勝手な出撃費をシュナイゼルに勝手に押し付けるほどである。 だが、それにしても。 宰相からの報告に、ナンバーズが立ち会うなどという事態は、ブリタニアにおいて十分異常な行動と取られかねないだろう。 報告が、ゼロについての宰相の私見でなければ、スザクでさえ自身が此処にいることに流石に躊躇いを覚えたに違いない。 「それで。お前はどう見る、ゼロを」 中華連邦の、天子とオデュッセウスの婚姻発表の場において、余興としてシュナイゼルとゼロがチェスを興じたことは既に耳に入っているのだろう。 聞く体勢を取る皇帝に対し、金の髪を少し揺らすだけに宰相は留めた。 「とても、プライドが高いようですね。それから、負けず嫌い、戦略としての才がこれ以上伸びるなら、ブリタニアにとって良い起爆剤となってくれるでしょう。わが国は、武勲をどうにも力押しで得ようとする者が多い」 苦笑交じりに言って一度間を置けば、続けろと視線で示された。 にこやかに一礼をして、再度シュナイゼルが口を開く。 「己の美学を持っていますが、情に厚いようです。切り捨てるべきポーンを、幾度か拾って次の駒に使っています。無意識でしょうが、ポーカーフェイスも苦手なようですね。仮面で隠していようと、あぁも苛立った空気を出すようでは爪が甘い。おそらく、若いでしょう。そう……枢木君くらいかな?」 唐突に自分へと話が振られ、びくりとスザクは背を振るわせた。 けれど示した反応にはなにも言わず、男は続ける。 「決定的なことは、ただ一つしか得られませんでしたが……。貴方が、この世の誰より嫌いのようですよ。ゼロは」 「ふん。その程度か」 「えぇ。それで、何故あの子があんなところに?」 チェスの手は、性格を現す。 自身の美学をもって、駒を動かす。 美学のない勝利、与えられる勝利など、到底許さぬある種潔癖を彷彿させる気高さ。 幼いながらに、余計な手心を加えれば猛然と反論をしてきた義弟を思い出す。 美しい黒髪、美しい紫水晶、笑っていた顔しか思い出せないのは、なにもその思い出しか残さなかった脳内だからではない。 ただ、あのアリエスの離宮では、彼はうれしそうに困ったように恥ずかしそうに。 ずっとずっと、笑顔を浮かべていたからに他ならない。 「ゼロがルルーシュとは。ナナリーに、なんと言って良いやら困りますね」 妹のナナリーは、必死になってルルーシュの捜索を続けている。 アッシュフォードに迷惑がかからぬようにともなれば、大々的にすることは出来ないが彼女は彼女なりに自身が及ぶ手を尽くしてルルーシュを捜していた。 その彼が、ゼロ。 先立ってゼロとナナリーが接触した、という報告は、既にそれぞれの耳にも届いている。 ならば、気づかなかったのかという思いもあった。 彼らの会話がどういったものかは判別つかぬまでも、少なくとも三度彼らは隔てられたと考えて良いだろう。 しかし状況など、いくらでもどうとでも変化する。 それがわからぬ皇帝ではないし、シュナイゼルでもなかった。 現在、ブリタニアは中華連邦を新しく圧力を加える要因を探していた。 ここで下手にナナリーに動かれてしまえば、圧力が逆転する要素になりかねない。 無意識の爆弾か、と、呟く声はスザクの耳にも届くが彼はなにも言わなかった。 そもそも、この場においてスザクの発言権など塵屑以下なので当然とも言えるが。 「言う必要は無い」 「えぇ。ナナリーが自力でたどり着けるとは思えない。しかし、万が一。を考えるべきでは?」 「無用だ」 「……そう、仰るからには何かお考えが?」 カノンの言を思い返すまでもなく、ナナリーには力がある。 エリア内においての絶対的な権力、というものではなく、彼女の本来の資質ともいうべきものだが。 あの可憐な少女は、けれど非常に頑固でかつ状況を感じ分ける能力を備えている。 折れるところを知っている、譲りどころを知っている。 そして、譲らぬところと交渉所を無意識にか理解していた。 果たしてルルーシュの教育により更に磨かれたのかはわからぬが、易々と懐柔策に乗ってくれないことも確かだろう。 特区日本の断行は明らかに愚か極まりない行為だが、少なくともあの一件で不穏分子を軒並み追い出し矯正エリアにもかかわらず高い安定度を得ることは叶ってしまっていた。 シュナイゼルの問いに答えることなく、皇帝はわずかに顎を肩口へ寄せ重く口を開く。 「枢木よ」 「は、」 短い返答の後には、短い言葉。 「ナナリーを殺せ」 流石というべきか、シュナイゼルは顔色ひとつ変えなかった。 顔色を失くしたのは、スザクのほうである。 「ルルーシュの記憶が戻りはしても、C.C.をおびき寄せられぬのでは意味が無い。無意味な餌をたらしておくのは、仕舞いだ」 言っておいたはずであろう? もしもルルーシュが記憶を取り戻し、なおも刃向かってくるというのなら。 ナナリーを殺せと、言っていたはずだと続ける皇帝の言葉に、震えが止まらないのかカタカタを細かく揺れ動くスザク。 けれど、二度目。 皇帝に名を呼ばれれば、乾いた喉に流し込めるはずもない唾液を嚥下させる動きだけをして。 「イエス・ユア・マジェスティ」 彼は、礼を取った。 命令されれば、なんでもやるのか。 ルルーシュの冷ややかな声を、脳裏に聞きながら。 それでも、自身の背負う外套の責を負うのだと。 胸のどこかで、言い訳をして。 その会話の、最後の最後の最後だけを聞いた少女には、誰もなにも触れなかった。 気づかなかったのか、見逃されたのか、軽んじられたのか。 アーニャには、興味が無い。 *** ネタ元は小説がベースです。 公式ではないでしょうが、公式が出しているやつでもあるんだよなぁ……(悩 小説はどう取り扱って良いのか迷います。 |