蓬莱島にその姿が現れた時、島内は騒然となった。 それどころか、パニックになった日本人たちで一時期収集がつかなくなったと言っても過言ではない。 ブリタニアに国外退去を命じられた、という名目のもと、つかの間の平穏に身を浸していた彼らはその姿に畏怖と恐怖しか抱かない。 もしも、少しでも攻撃体勢に入られればパニックなどという生ぬるいものではなくなっていただろう。 黒の騎士団が、周囲をぐるりと取り囲み対中華連邦、そしてブリタニアとの戦争に備えた幹部たちが早々に現場に到着しなければもっと騒乱はひどくなっていたかもしれない。 兎に角も、その存在は蓬莱島へやってきた。 かのアーサー王の息子にして、簒奪を試みた少年の名前。そして父に殺されし騎士の名前を抱く第七世代KMF、モルドレッド。 それは、帝国最強の騎士に与えられる機体のひとつのはずだった。 サザーランドや月下、無頼、斬月。 戦闘員たちは各々乗り込み、そしてまたゼロも蜃気楼に乗り込んでオープンチャンネルを通した。 黒の騎士団ではない一般市民は、極力対岸へ向かうように今も足元で指示が飛ばされている。 例えどれだけの火力を揃えたところで、モルドレッドの一撃とは比べ物になるまい。 わかっているからこそ、手勢の二割は市民の誘導と称し退避に向かわせたのだ。 何事か、苛々とルルーシュは機体の中で柳眉を寄せた。 ブリタニアは、現在中華連邦との協議で動けないはずだ。勝手にラウンズの一席が動けば、外交問題になりかねない。 気にしないのか、それともそれを気にする余裕もないほどの非常事態が発生したのか。 ディートハルトからの報告には、そんなものはひとつも上がっていない。 もっとも、昨今の自身の行動に彼の中の崇拝像が崩れかけて信用はしても信頼はされているかというと微妙なところなのだが。 「ブリタニア皇帝直下の、ナイト・オブ・ラウンズが一体何の用だ」 変声機を通した、威厳ある声が響く。 同時に、尻馬に乗る玉城のわめく声も聞こえたがそれは黒の騎士団が総じて無視をした。 宴会太政大臣が何故こんなところにいるのか、というC.C.のあきれ声さえかかる。 言い返そうとわめきかけたところで、モルドレッドが動いた。 「―――って、―――る?」 声が小さくて、集音マイクが拾いきれない。 もう一度、重ねれば、少女の声が小さく、低く、淡々と、しかしはっきりと、問いかけた。 「守って、くれる?」 「誰をかな。貴公は、ナイト・オブ・ラウンズ。ブリタニアにおいて、貴公より弱い人間などそうはいまい」 皮肉に、けれど声の主は答えなかった。 代わりに先と同じ、淡々とした声が上がる。 「でも、皇帝より弱い」 「………ッッ」 それは、強い弱いの次元ではないだろう。 一線を画す皇族、その頂点にいるのが皇帝。 暗黙の、否、ブリタニア人ならば、遺伝子にだって刻みついている絶対の事実。 だが、そんなこと考えつくこともないと言わんばかりの態度で彼女は続けた。 「皇帝陛下から、守ってくれる?」 「―――誰を」 誰を、守れというのか。 誰を、守って欲しいというのか。 ルルーシュは、問いかける。なにかが、外れてほしい気がして。 同時に、当たっていて欲しい気がして。 両方が、天秤に乗ってはゆらゆらと揺らめいている。 「―――ナナリー皇女殿下」 オープンチャンネル越しでさえ、ルルーシュが息を呑む音がはっきりと聞こえた。 カレンと、C.C.がそれぞれ弾かれるようにコックピット内で蜃気楼へ向き直る。 ナナリー・ヴィ・ブリタニア。 エリア11総督にして、神聖ブリタニア帝国第八十七位皇位継承権保持者。 盲目にして自由に身動きの取れぬ、儚い花の少女。 ゼロ、ひいては黒の騎士団に特区日本を呼びかけた。 そしてカレンにとっては、以前の知り合いにしてルルーシュの最愛の妹というものが入る。 その、彼女を。 今、モルドレッドのパイロットは何から守れと言った……? 「ナナリー皇女殿下を、守って。皇帝と―――スザクから」 緊急射出用ハッチとはまた別のところが開き、そこからインカムをつけた少女が顔を出す。 ユーフェミアよりも薄い、淡紅色の髪。 かなり派手に改造しているが、白い衣装はナイト・オブ・ラウンズのそれだろう。 ほっそりとした肢体の少女は、ゼロを呼びかける。 少女を、守ってと。 言って、首を下に向ければ。 車椅子ではなく、コクピット内でどうしたら良いのかわからぬ顔のままをした、ミルクティ色をした髪の盛装をした少女の姿。 誰かが、つぶやいた。 ナナリー・ヴィ・ブリタニア、と。 「ゼロ」 ナナリー皇女殿下を、皇帝とスザクから守って。 言うラウンズの少女の口調は淡々としているというのに、必死さが伺えた。 *** 新連載です。 ねた元は小説です。アーニャin黒の騎士団で進む予定です。 |