扉を前に、ひとつ息をついて呼吸を整える。 自ら開き、まずは神楽耶を先に室内に通した。 さも当然のように、一礼することもなく入室を果たす彼女である。 逸る心を抑えきれないのか、ゼロ様! と、明らかにはしゃぐ声があがっていた。 続くのが、楽しげに手を振る褐色の科学者。 白衣を翻す彼女は、捕まっていた団員をぐるりと見渡し無事の姿の多いことに少しばかり驚いているようだった。 最後に、ディートハルト自身が入室を果たし彼らは首領と再び見えることが叶った。 「お久しぶりねぇ、ゼロ。相変わらず面白いことをしてるじゃなぁい?」 「相変わらず、とは君のための言葉のようだな。ラクシャータ」 中国総領事館内の一室からなる、独立宣言を揶揄してのことだろうというのは直ぐにわかったのだろう。 皮肉にもならぬ様子で、ゼロは肩を竦めるだけの動きをした。 「神楽耶殿、ご不便をおかけしました」 「いいえ! 幸い、わたくし達の方に興味を抱かれた方々もいらっしゃいましたもの」 「ほう……。それに関しては、またお聞かせ願えますか?」 「わかりました! 妻は、夫の傍にいるものですものね!」 溌剌と頷く日本最後の皇族に、さしもの男もたじろいでいるようだった。 その図は、ゼロが日本独立のために立ち上がったブラックリベリオンの時を彷彿とさせる。 一年、という時間は、長く短いものだったのだと変わらぬものを見つめては誰かが眼を伏せた。 「もう一度お会い出来て、嬉しく思いますよ。ゼロ」 「ディートハルト。オメガシステムは、非常に役に立った。お前先見の明がなければ、ならなかったことだ。感謝しよう」 「そのような言葉。貴方の御役に立つことが、私の望みですから……!」 感激というよりも、歓喜に打ち震える男を見てお前も変わらないとほんの少し笑う様子を浮かべる。 幹部、重要なポストにいる人間は、ひとまずこれで揃ったことになる。 「早速ですがゼロ。中華連邦より戻る際、いくつか耳に入れていただきたい情報を得て参りました」 「聞こう」 「はい。………、咲世子」 「此方に」 中華連邦の給仕服のままだった咲世子から、書類を受け取るとディートハルトはそのままゼロに渡した。 嵩張る紙の束を、扇と藤堂がそれぞれに咲世子から渡される。 扇はどこか恐縮した様子で、かすかに笑いを誘った。 「ゼロがカラレス前総督を殺害されたことで、新しい総督がこの地に赴任するということですが」 「ブリタニアの動きが、早いな」 「はい。どうやら、既に決まっていた決定を報じているのみのようですね。あれは用意されていた映像とみて、間違いはないと思います」 元々報道畑にいただけあって、急遽の映像ではないことを見分ける眼は肥えている。 ディートハルトの言葉に、ゼロは浅く頷いてみせた。 「新総督の就任は、私の耳にも入っている。矢張り、お前もこれは事前に決まっていたものとみるか」 「流石はゼロ。……ですが、腑に落ちぬことも幾つか」 「わかった。藤堂、扇、プランの再構成を諮る。C.C.とカレンは、神楽耶殿を星刻のもとへ。黒の騎士団は、彼女と共にある旨を忘れず伝えろ」 「あ〜〜! あなた! まだゼロの傍にいるんですの?!」 「………千葉と朝比奈、C.C.とカレンと交代しろ。神楽耶殿、その女は私の共犯者ですので、妻などというものではありません」 「まったくだ。こんな男の妻になろうなんて、悪趣味だな」 「なぁんですってぇ?!」 うっかり、ブラックリベリオン時の口論が再度勃発しかけたがそれはゼロが神楽耶をやんわり引き剥がしたことで場を収められた。 「ラクシャータ、カレン、仙波はKMFゲージへ。紅蓮弐式、月下の再調整を最優先しろ。それから、新機体がある。君の意見を聞きたい。後でまとめておいてくれ」 「アタシが知らない機体ねぇ。いいわぁ、うちの子にしてあげる。パイロットは?」 「私の地下協力員、ということにしておいてくれ」 「ま、アンタのそういうところ、今に始まったことじゃないものねぇ」 納得しきれていないカレンとは対照的に、あっさり納得を示すラクシャータへ薄く笑う気配を仮面の男が滲ませた。 「咲世子。ディートハルト個人の協力員である君には、不躾かもしれないがその様子を見る限りハウスキーパーも出来るのかな?」 「はい。メイドとして、雇っていただいておりましたから」 「では申し訳ないが、君の手の回る範囲で生活環境を整える手伝いをしてやってくれ。どうにも、生活力のない連中が揃っていてね」 「かしこまりました」 くすりと笑いながら、それでも丁寧に咲世子は頷いてみせる。 総領事館にも、無論生活を支えるための女給はいる。 だが、黒の騎士団員には極力近づかぬよう言われている上にテロリストという眼もあるのだろう。 生活全般は、自力で賄わなければならぬと暗黙の了解になっている。 「では散会する」 打ち鳴らされるマントに、各々が自身の出来ることへと手を伸ばしていく。 ざわめく場に、C.C.がそっと首領の傍へ寄っていった。 肩口に振り向く仮面を見やれども、様子は微塵も伺えない。 けれど、魔女の眼には男を案じる色が強かった。 「………いいのか?」 「なんの話だ?」 彼女のそんな様子をわかっているだろうに、何事もないようにゼロは僅か首を傾ける。 言い募ろうとした彼女だったが、素早く藤堂たちを見やれば口をつぐんだ。 妹に。 ナナリーに、銃口なんて、向けられないくせに。 どうするつもりだと、思案の瞳を向ける先はまるで平然とした様子。 零す吐息は、絶望の色をしていた。 *** ストレートというには本当は一人足りないんですがorz 亡命してるの、四人だったので。お目こぼしくださいお願いします。 |