ソファに倒れこむ青年の前髪を払ってやっていたC.C.は、不意に現れた少年に首を向けた。
 注意を怠っていたつもりは、微塵も無い。
 けれど、現れた。意味するところはなんとなくわかったが、あえて今は無視をした。
 魔女の瞳には、嫌悪は無い。
 その代わり、優しさも浮かんでいなかった。
 ロロは嫌悪を滲ませながら、それでも心配げにルルーシュへ視線をやった。
 ちゃりちゃりと、携帯につけられたロケットが揺れている。
 白いハートのストラップは、明らかに少年向けではない。
 あれは、今は意識を落としている男が最愛の妹へ送るために買っていたはずの品であることを思い出した。
 マリアンヌと、幼少期の写真は飾ることを赦されない。
 いくら基本的に生徒の出入りを禁じているとはいえ、生徒会メンバーはクラブハウスに入室が自由なのだ。
 どのような経緯で、見つかるとも限らない。
 そして、物理的な証拠が見つかってしまえば誤魔化しは難しい。
 なにしろ、幼い頃のルルーシュやナナリーは兎も角マリアンヌは新聞などを遡ればいくらでも調べることは叶うのだから。
 せめて手元で、そっと覗くだけでも母と自分達の写真を入れておければ。
 そう思って、送ったのだったか。詳しいことは、シスコンの惚気にしかならないから話半分で流していたけれど。
 それを持つということは、敵かと冷静に断じる。
 C.C.の知るルルーシュとは、ナナリー至上主義者だ。
 本来ナナリーが持つはずのものを持っている、という時点で明らかに可笑しい。
「………兄さんは」
「兄さん? 嗚呼、なるほど。そういう"設定"なのか」
 言ってやれば、露骨な嫌悪を向けてくる。
 なんてわかりやすい。
 意地の悪い感情が擡げてくるが、その被害にあう前にロロはルルーシュを心配げに眺めやった。
 内心で舌を打つ。
「眠剤を強制的に摂取させて、無理矢理落とした。今ならば、殺せるぞ」
「………僕は、兄さんを殺すなんてしない」
「そうか。……本当の妹が、出てきたとしても?」
「……しない。兄さんは、僕に優しい世界を見せてくれる、希望を、未来をくれると言った。彼の妹に、ルルーシュは一度も嘘をつかないと約束をして、それを守っている」
 兄妹という立場で、今は同じ自分にも。
 同じ約束をしてくれた。ならば、破られることなどありえない、と。
 ロロは被りを振るった。魔女は聞くともなしに、ふぅん。と頷き、琥珀色の瞳を向ける。
「では、なにをしに来たんだ? ルルーシュを殺すわけでもない。私を捕らえるわけでもない」
「………屋上で、枢木卿と会っていた、って、聞いたから」
「いたな。そういえば」
 騒ぎの真っ最中に、逃げ出したが猫を抱いた男には嫌というほど見覚えがあった。
 彼女が学園内にいたことが、気に食わなかったのだろう。
 眉間へ皺を寄せたまま、にらみつけられたがやはり魔女はどこ吹く風だ。
「なに、言われたのかな、って、心配になって」
「そうか。………付いていてやれ」
「え」
「魔女に傍にいられるより、大事な弟が傍にいたほうが良いだろう。こいつの下の弟妹に対する溺愛振りは、洒落にならないぞ」
 覚悟しておくんだな。
 言って、立ち上がる。
 すれ違う間際も、慌てているものだから少しだけ笑えた。
 恐らくは、あのKMFのパイロットが少年なのだろう。
 彼は、絶体絶命的状況からルルーシュを助けた。
 自分を捕縛する任に当たってはいるのだろうが、それよりもゼロを選んでしまった。
 敵ではあるが、味方とも考えられる。
 任せても、大丈夫だろうと部屋を出た。
 眠り続ける魔王の真意を、魔女は知らなかった。
 知りようも無かったのだから、当然だけれど。 


***
 C.C.様、あとからルルに文句垂れられそうです。(寝起き一発目がロロで最悪だった、とか。←
 彼女の「少なくとも敵ではないだろう」みたいな先週の発言が、彼女の本意だったと思いますがそうするとこの二人にすれ違いが出来たということでそれはちょっと恐いと思ったり。


黒色のスリー・オブ・ア・カインド




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