「嗚呼……。もちろんだよ」
 虚空に向かいかける声に、千葉は足を止めた。
 足音を立てる癖は、気付けば抜けていた。
 軍人として、足音を立てるのは自分の存在を示すことも意味する。
 自軍のキャンプ内で足音を消していたことを理由に、撃たれてはあまりに無意味だ。
「そんなことは無いさ。アレは私だって、想像の範疇外だ。………わかっている、けれど」
 C.C.は、明らかに会話を成していた。
 けれど廊下に人の気配はない。
 自分より上手に気配を消せる存在など、彼女は少なくとも黒の騎士団内では知らない。
 かといって、かの魔女が精神になにかをきたしているとは到底考えられなかった。
 卜部が死んだという、飛燕四号作戦。
 その重要な鍵を握っていたのは、C.C.だという。
 四聖剣は、名ばかりの存在ではないのだ。彼が魔女にゼロ奪還を託したということは、信用して問題ないことがあったということになる。
「………わかっているさ。私は、魔女だから。ひとを幸福にする魔法は使えない」
 優しい魔法使いではない。
 私はただ、災厄を呼ぶ魔女でしかない。
 わかっている、わかっている、わかっているよ。
 その災厄を、一身に受けるのはアイツだ。
 震える声で魔女が、女性の名前を呼ぶ。そこから、別れの挨拶を告げて。
 吐息を零し、不意に向きかえられ千葉は思わず背筋を伸ばした。
「おい。そこの」
「………」
「盗み聞きとは、いい趣味だな。四聖剣ではなく、四魔剣とでも名称を変えるか?」
 挑発だと知っても、苦虫を噛み潰すような顔で彼女は廊下の角から顔を出す。
 久方ぶりに露出する、ストッキング越しの足が微妙に涼しい。
 パイロットスーツにせよ、日本軍の戦闘服にせよ、スカートなどでは当然なかった。
「ここは、黒の騎士団の誰もがいる国の廊下だ。そんなところで、隠しておきたい話をするほうが問題じゃないのか」
「開き直りか? 聞かぬ振りをして、立ち去ることだって出来るだろうに」
「聞かれたくない独り言なら、部屋の隅でしていればいい」
 譲らぬ視線に、皮肉げな冷笑を魔女が浮かべる。
 もっともだ、と頷いてから、それでも盗み聞きに変わりはあるまい。と頤を示されればそれには押し黙るしかない。
「なに揉めてんの?」
 割り入るように、朝比奈が顔を出してくれば静かな対立は潮が引くように薄れていった。
 空気が変わったことを、感じ取ったのだろう。彼は、軽く肩を竦めて見せる。
「千葉、藤堂さんが呼んでたよ。卜部がいない分、俺たちが負わないとね」
「嗚呼わかっている。………C.C.。私も朝比奈も、ゼロの裏切りを忘れたわけではない。独り言を浮かべるような呆けた様をいつまでも続けるようなら、いつだって私は藤堂さんに進言するぞ」
「好きにしろ。―――そうやって自らの判断を、持ち続けろ? これより先は、ゼロさえ浸りきっていなかった地獄だ」
 言葉に、朝比奈が眼鏡の奥で眼を細めた。
 事態がなにか、動いたのか。
 問い掛ける前に、魔女は踵を返す。声をかけ、留めようかと思ったが止める。
 藤堂が呼んでいたのは本当だし、なによりかの魔女はゼロと並ぶものであり自分の理解の範疇外にいる存在だ。
 正直、個人的に親しくしたくはない存在だった。
 言葉通り魔女と呼んで遜色無い緑髪の少女と対峙していた同僚の肩を、何とは無しにぽん。と朝比奈は軽く叩いた。



***
 C.C.様と話していたのは、マリアンヌ様です。
 もうちょっと、色々考えないとだなぁ……orz


魔女と武人のツーペア




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