流れたニュースに、愕然とした表情でカレンは食い入るようにテレビを見つめていた。
 今、この情報はエリア11を駆け回っていることだろう。
 チャンネルを変えたところで、どれも変わりはしないだろう。
 体温が一瞬のうちに落ちた指先は、ぎしぎしと動かし辛い。
―――なんて、ことを。
 仮面の下の表情がわからなくて、わかりたくなくて、カレンは振り向くことも出来ない。
 さしもの魔女も、予想はしていても実行に踏み込むとは思っていなかったのだろう。
 表情を強張らせていた。
「こんな嬢ちゃんが新総督なんて、ふざけてんのかよブリキ野郎が!」
 玉城がニュースを流すテレビに向かって、悪態を吐く。
 まさか。
 カレンはわからぬように、嗤った。
 口の端が、なんの感情かわからぬまま歪んだのが自分でもよくわかる。
―――まさか。これほど、有効なカードは居るまい。
 ブリタニアは、ゼロの正体に気がついている。
 気がついた上で、泳がせていたのだ。
 この一件で、よくわかった。
 まだ、自分達はブリタニアの手のひらの上にいる。
 悔しくて情けなくて、彼女はぎりりと拳を握った。パイロットにとって、手は命に等しく大切なものだが今だけはどこにも発散させずに耐えろという言葉は通じないと自覚がある。
「だが、でも、これで攻略はしやすいはずだ。黒の騎士団として、彼女を殺すわけにはいかなくても総督として派遣される以上、駒に使えるはずだからな」
 千葉が、冷徹に判断をくだす。
 駒。その言葉が、いやに室内に響いた。
 新総督、ナナリー・ヴィ・ブリタニア。
 盲目であり、自ら自由に動くことも難しい儚い少女。
 天真爛漫を絵に描いたような血の惨劇を引き起こしたブリタニア最悪の魔女、前副総督ユーフェミア・リ・ブリタニアとは対照的に、彼女は素朴な花のようだった。
 丁寧に一礼し、自分は本来この場にはいないこと。
 ただ前総督、カラレスの代わりの飾り物であることを淡々と語った。
 その上で、総督としての責務を負うことを名言する。
 その姿は正しく皇族の姿であり、気高さと矜持がはっきりと見えた。
「ゼロ……」
「プランを練り直す。新総督がそう言っている以上、彼女が皇族としての権力を振るわない限りナナリー・ヴィ・ブリタニアは弱者だ。ブリタニアに、また利用されるだけの、な」
 恐らくは、どのように死んだところで本国は気にしないだろう。
 短く言って、室内を出る。
 吐き捨てるような低さ。事情に通じているとでも言わんばかりの、深みのある言葉に、藤堂が声をかけようと口を開く。
 けれどその時には、既に扉は閉まってゼロの背中は見えない。
 僅かに躊躇った後、結局後を追うようにC.C.も席を立った。
 カレンも追いかけて、やめる。今の彼に、ゼロを求めるのはあまりにも酷だ。
 彼女は知っている。
 どれだけ、どれだけ、ルルーシュはナナリーを愛していたのか。
 護衛官にナイト・オブ・セヴンを連れている新総督に、報道官は好き勝手な発言をしている。
 まずは情報収集をするしか動く手段のない黒の騎士団は、真剣に静かにテレビに意識を注いでいた。
 ナイト・オブ・セヴンが、ナナリーの車椅子を押して少しばかり声をかければ振り向いて丁寧に一礼をする姿がカメラに映った。
 花のような少女。
 傍らに控える騎士。
 それは、まるで理想のような姿であったけれど。
 カレンは奥歯をきつくかみ締める。
 退け、そこは、本当にお前の居場所かと。画面越しに、彼女は殺意を以って睨み付けた。
 なによりも誰よりも、ナナリーを守り愛し慈しんでいたルルーシュ………、ゼロ。
 その彼と敵対するように、彼女を置いて。
 守っているのが、さも自分のような顔をして。
 お前は何様だと、彼女はテレビを睨み付ける。
 けれど、当然画面越しの枢木スザクはなにも知らぬようにナナリーに寄り添っていっただけだった。
 この、絶望的な距離。
 悔しさと怒りが、カレンの胸に虚無を生んだ。



***
 監督鬼畜だから、新総督にナナリーをくらい平気でやりそうと思って本当に覚悟だけのはずだったのになんか書いてしまいました。(あるえー?
 いや本当、こういう展開だけは勘弁してください。でもやりそうorz


ロイヤルストレートフラッシュ




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