溌剌とした笑顔を、向けられて。 ルルーシュは、嗚呼とまた息をついた。 嗚呼と、また息を吐くしかなかった。 けれど枢木スザクは、気にしない。そんなことは、気にならないといわんばかりの表情で。 満面の笑みを浮かべ、今は剥き出しにされた富士山を示す。 サクラダイトの大鉱脈を抱える、エリア11。 今は、枢木スザクを領主と頂くニッポンに名を変えたが。 ここまで来るのに、彼はどれだけの犠牲を払ったのだろう。 生易しい覚悟で来れる地位ではないことを、ルルーシュは理解している。 皇族の末端に、席を置いていたのだ。 事情は教えられることなく、理解しているつもりだ。 だから、本当は喜ぶべきなのだろうと彼は思う。 思う時点で、自分は喜んでいないのだと心中で彼は呻いた。 「ねぇ、ルルーシュ!」 ほら、見て。 ここはニッポン。 僕の生まれ故郷で、君と出逢った場所。 君と出逢った場所で、君が死んだことにしていた場所。 君が死んだことにしていた場所で、君が隠れ住んでいた場所。 今はもう、そんなことしなくてもいい。 ここはニッポンなのだから、君はもう隠れていないくていい。 ナナリーはブリタニアで、安全に暮らしているから。 今はひとまず、君だけでもここで安息を得て! だから、ゼロを殺してもいいよね? 笑顔のスザクに、嗚呼と彼は眼を伏せた。 何度言っても、彼はわからない。 何度言っても、彼は見ない。 何度言っても、何度言っても、何度言っても!! 彼は理解を、示さない。 見ない振りばかり、彼は得意だ。 悲しげに、苦しげに、ルルーシュは口元を歪めた。 「嗚呼、ここはニッポンだな」 エリア11ではない。名前はニッポン。 イレヴンではない。日本人。 喜ぶ人の声が、ここまで聞こえてきそうだ。 嗚呼、良かったな。良かったな、良かったな。 繰り返す呟きに、どこにも喜びなんてなかった。 「―――だが、何故私がゼロであることを放棄しなければならない」 響く低い声に、スザクの表情が凍った。 ここまでして。 何故、ゼロであることを放棄しないのか。 何故、ゼロを殺してしまわないのか。 問い掛ける表情に、ルルーシュは失笑を隠せなかった。 自分は一体、何度彼に告げた? 何度、ブリタニアへの憎悪を告げた? 何度、ブリタニアを壊してやると告げた? 嗚呼、一言もなにも通じていなかったのかと。 眉間に皺を寄せて、呟いた。 「だって、ここはもうエリア11じゃない! ルルーシュ、俺は!!」 「だから?」 「だから、って………。なんで……」 「エリア11がニッポンに変わってしまったのなら、大幅なプラン変更が求められるか。それでも、私はゼロであることを止めはしない」 「どうして! これ以上、世界を揺るがせるつもりなのか、君は!!」 「なにを言っている……? 最初から、私は言っているはずだ」 ブリタニアに崩壊を。 優しい世界の構築を。 「一国を、世界と同義語に出来るとでも本当に思っているのか? 枢木スザク」 アッシュフォード学園。美しき箱庭。 夢と終わった特区ニッポン。美しき箱庭になるはずだった血だらけの忌むべき場所。 そうして、枢木スザクが形振り構わぬ結果で手に入れたニッポンという国。 けれど、それは果たして世界か? 繰り返し、望んだものは、なんだと繰り返していただろうか。 「私の望みは、最初から変わらない。私の望みは、最初から揺るがない。君の願いは、君が叶えたこの国だろう」 おめでとう。 お前は、願いの形を手に入れた。 おめでとう。 「だが、だからといって私が望みを諦めなければならない理由はあるまい? 枢木スザク」 世界を揺るがす。 世界を破壊する。 世界を創造する。 世界を、世界を、世界を、世界を。 欲しいのは、世界。 欲しいのは、やさしい世界。 お前が願いの結果を手に入れたからといって、己が諦めなければならぬ道理はない。 「おめでとう、枢木スザク。私の怨敵」 手を離したのは、お前から。 ならば私は躊躇えない。 もう、躊躇うことはしない。躊躇いが、この一年あまりの偽りの日々だったのだから。 「私はやさしい世界が欲しいだけ。お前は一生、この監獄の楽園で過ごせばいい」 踵を返せば、銃を突きつけられる気配がした。 嗚呼、本当に。 きれい事では、済まされない二人だ。 肩を震わせ、ルルーシュは美しく歪んだ笑みを浮かべた。 *** LostColorで、色々突っ込みどころ満載だったブリタニア軍人編よりのネタになります。 こんなゲームでそんな重大なネタを晒さないでください頼むからorz |