白い光のなかで、眼を覚ます。
 否、覚ますというよりも寧ろ意識がわずかに飛んでいたのが戻ったというだけなのかもしれない。
 虚ろな意識は、半分以上どこかに飛んでいっているかのようだ。
 此処がどこだったか。
 今はいつなのか。
 何故こうなったのか。
 目の前にいるのは誰なのか。
 理解は遠く離れ、考えようとするだけ意識は四散していく。
「―――」
 ギシリ。身体が軋む。
 視界の半分が、ひどく暗い。
 理由は思い出せない。
 ギチリ。身体が軋む。
 腕も足も動かせない。理由は忘れたが、抵抗は無意味だということだけ覚えていた。
 ガチリ。どこかで音が鳴る。
 首を動かすだけの体力は無い。
 誰が来たのかもわからない。扉が開錠されたからといって、この場から脱する手段など考えもつかない。
「―――」
 音が流れるが、それが意味するところはわからない。
 そっと触れられる、布手袋越しの感触に。
 脊髄へ氷でも突っ込まれたかのような不快感が、走った。
 だが、跳ね除けるだけの体力は尽きていてどうしようもない。
「―――シュ」
 穏やかに低い声だと、ようやく頭が少しだけ声の相手を照合しようと動き出す。
 けれど、まだだ。
 まだ、わからない。
 わかったところで、現状―――どう対処して良いのか。
 本当に、まったくわからないのだ。
 腕の中に、抱き込まれる。
 抱き返すことは、当然出来ない。
 周囲で騒ぐ者がいる。けれど、それでも逞しい腕を持つ男は、愛しげに呼ぶことをやめない。
「ルルーシュ。まさか、君がゼロとはね。ユフィとは仲が良かったのに、どうしてあんなことをしてしまったのかな」
 ユフィ、ユーフェミア。
 慈愛の皇女。
 自愛の皇女。
 どちらも、恐らく間違いではないだろう。
 温室しか知らない、花の皇女。
 初恋かもしれなかった、少女。
 ユフィ、ユーフェミア、彼女に対して、したこと。
「ふむ。ユフィの名前にも、ゼロにも反応がないか。投薬は、規定値なのだろう?」
「確かにそう聞いておりますが。我が君、もうあきらめたほうがよろしいのでは」
「そういうわけにもいかないさ、バトレー。とはいえ、今日は諦めたほうが懸命なのかな?」
 如何思う? ルルーシュ。
 光のない紫電の瞳を覗き込み、シュナイゼルは問い掛ける。
 当然、反応などありはしない。
 銃創も癒えぬうちから連日行われた尋問、最愛の妹の安否の不明、枢木スザクに触れられたPTSDの言葉。
 それらは、確実にルルーシュを壊しかけた。
 先頭立ってゼロへの尋問を続けるよう願いでていた枢木スザクを、彼の直属の上司とシュナイゼルが止めなければ確実に彼は壊れていただろう。
 ブリタニア軍だ。当然かもしれないが。
 彼には、まだやってもらうべきことが残っている。
 コード・Rに関与していたということ。
 超常の力を持っているということ。
 それらは、以前クロヴィスが捕らえたという魔女の存在を裏付けるものであり、皇帝の望む"なにか"を掴む手がかりでもある。
 利用価値のあるものを、途中で壊して御破算にするような愚かな真似を、シュナイゼルは認めない。
 ユーフェミアを殺そうと、ブラックリベリオン事件の首謀者だろうと、黒の騎士団の首領だろうと、そんなことは関係ない。
 価値があるうちは、使うのが当然だ。
「また来るよ。魔女とお前は共犯者だということだからね、王子様が助けに来るのを待っているがいい」
 黒髪に優しくキスをして、シュナイゼルは白い部屋から出た。
 皇帝が、遮二無二に求める"何か"を得られれば。
 その座は、一気に近づくことだろう。
 追い落とすまでは出来ずとも、少なくとも迫る材料にはなるはずだ。
 世界を一望出来る高みを思って、シュナイゼルは誰にも知られぬほどに薄く笑った。
 もしも、そうなってもルルーシュの自我が戻らず。
 何も映さない、人形のように剥落した意識のままでいるならば。
 それもそれで、傍に置いて愛そうと。心に決めて。



***
 R2近くなってきたので、どきどきしながら捏造万歳。
 シュナイゼル兄上は本当に、優しい人ではありえないと思います。兄様ファンの方えらいすいませんorz 


爛れぬ白




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