母が、しみじみとした声で言った。 「なるほど。今日は、猫の日なのね」 ………は? 聞き返したくなったのは、当然だろう。 ルルーシュは、高貴な紫の瞳を瞬かせて母の言葉を待った。 無論、なにごとか説明を求めるためである。 けれど彼女の行動は素早かった。 機動性にも優れた、アッシュフォードが紡ぎあげたフレーム構想。 その第一号ともいうべきガニメデと共に、戦場で駆けた彼女からすれば自身の行動など遅いに違いない。 だが戦場の彼女を知らぬ息子のルルーシュが、そこまで思考が回るはずもない。 母は、笑顔で迅速に行動していた。 昼寝から中途半端に目覚めたルルーシュに、少し待っていてね。と、笑顔とキスを送って。 「で」 「で?」 「母様」 「どうしたの、ルルーシュ」 笑顔の母、笑顔のナナリーとユーフェミア。 笑顔というより、荒い息をついているコーネリア。 物凄い満足げな顔をしているクロヴィス。 いつも笑顔なのだが、輝きが違うぞシュナイゼル。 更に、アリエスの離宮を守る衛兵の数人もいる。ゴッドバルト家の何某らしいが、生憎名前までは覚えていない。 中庭には、パラソルとテーブルが出されお茶の準備は完璧である。 少し寒いとはいえ、小春日和も多くなってきた二月は目で楽しむ花はないけれど日差しのおかげで昼間は十分過ごしやすい。 いつものことといえば、いつものことともいえるこの午後は。 けれど、決定的に違うことがあった。 「駄目よ。今日は語尾に『にゃあ』をつけないと」 なんのプレイですか、母様。 とまでは思わなかったが、ルルーシュは大変混乱していた。 ナナリーやユフィの頭に、燦然と輝くネコミミ。 三角形のふこふこした手触りは、たかがネコミミと侮るなかれ。十二分に気持ちのよいものだった。 ユーフェミアの髪色に合わせたネコミミは特注であり、それを発注したのがコーネリアだと知った瞬間姉への評価がわずかに下がった。 無論、ナナリーのネコミミの愛らしさに胸を打たれれば先の評価は不当とし、元に戻ったが。 彼女たちだけならば、まだわかる。 が。 「なんで僕まで……にゃあ」 「あらルルーシュ。似合うのだから、良いじゃない」 ね? と、笑顔でにこにこ笑う母はいつもの母だがいつもの母ではない。 にゃあ。ともう一度つぶやけば、それもそれで可愛いから良し。と頷かれた。 「いいじゃないか。可愛いよ、ルルーシュ」 「そういうことは、ユフィやナナリーにいうべきです。男の僕が可愛くたって、仕方ないでしょう。シュナイゼル兄上」 「そんなことないぞルルーシュ! ナナリーやユフィは可愛いが、お前も十分可愛い! その辺の姫に遅れをとらぬ可愛さだ!!」 「そんなことを堂々と言わないでください、クロヴィス兄上……」 言っている本人たちは、ネコミミをつけていない。 文句をいえど、ネコミミ姿を見たいのかと問われれば沈黙しかなかった。 見たいといえば見たいが、見たくないといえば究極的に見たくない。 「まぁ、いいじゃないか。コーネリアも楽しそうだし」 「また兄上はそういって流そうとする。……確かに楽しそうですけどね、コーネリア姉上は」 先程から傍にいない彼女は、きゃあきゃあと楽しげに笑う姉妹をカメラで激写しまくっている。 うっとりと紅潮している頬は薔薇色であるが、なにかが違うと言わざるをえない。 「みんな、可愛いわねぇ」 うふふふふ、満足げに言う母に、もっともだと頷く兄二人。 ネコミミに、安全ピンで簡単につけられる尻尾を揺らし楽しそうな妹二人とそれを激写することに恍惚を見出している姉。 何故、誰もこの事態に突っ込みをいれないのかと、ルルーシュは少々泣きたくなった。 「そう思う僕は、おかしくないよな?」 小首を傾け、衛兵の一人に問いかける。 しかし、生真面目な顔で首を思い切り横に振れば。 「ルルーシュ殿下は、十分に愛らしいといえるかと思われます!!」 断言され、今度こそルルーシュは泣いた。 「あらあらルルーシュ。語尾の『にゃあ』を忘れては駄目でしょう?」 笑顔の母は、最強だ。 *** にゃんにゃんにゃんで、ねこのひだそーで。 うん、すいません。(逃げた |