誰が言ったのだろう。
 人を殺すなど、銃を向けて引き金を引くだけの、単純作業だと。
 誰が言ったのだろう。誰が言ったのだろう。
 そんな恐ろしいことを。
 人を殺すことは、恐ろしい。
 後戻り出来るところにいれば、尚のこと。
 手が震える。
 冷静である自分が、手をそっと重ねる。
 さん、に、いち。
 目の前の顔が歪む。
 見開かれる瞳。
 タァン………! 吐き出された銃弾は。
 壁に減り込んでいた。
「―――ルルー、シュ……」
 何故という色が瞳に、浮かぶ。
 それを問いたかったのは、己だ。
 殺すためにきたのに。なのに、なんて自分は愚かなのだろう。
 きれいごとでせかいはかえられない。
 耳元で囁かれるそれは、正しい。間違いなんて、何処にもない。
 そう。
 きれいごとだけを吼えて唱えて、変えていけるなら自分だってそうしたい。
 けれど、それだけで世界は変えられない。
 ブリタニアは、力などという生易しい存在ではない。
 あそこまで肥大してしまえば、それはもう暴力だ。力など通り過ぎてしまった。
 だからこそ。
 キングが、動かなければならないのだ。
 だからこそ。
 今、自分が手を汚さなければならないのだ。
 わかって、いるのに。
「―――軍を、撤退させてください」
「なに?」
「もう、やめてください」
 人を殺すのをやめてください。
 私にあなたを殺させないでください。
 おねがいします、おねがいします、おねがいします。
「兄上。クロヴィス兄上」
 おねがいだから、もう、やめてください。
 震える声に、相手が震えるのはわかる。
 打算? 理屈?
 打ち払って、しまいたかった。
「ルルーシュ」
「―――はい」
「私を、撃たないのか」
「撃たせないで、ください」
「腹違いとはいえ、実の兄弟を殺すのは気が滅入るか?」
 そうではないと、ルルーシュは首を振った。
 それもあるけれど。
 それ以上に、こんな風に変えていきたかったわけではないのだ。
「私は、無能だ。―――お前たちが眠る場所を、静かにすることも出来ないで」
「兄上に、治世の才がないことは認めます」
「手厳しい」
 くく、と喉で笑うと、黒髪に白いグローブで覆われた手を差し入れた。
 撫でるように、髪を梳かしていく。
「ナナリーは元気かい?」
「はい。眼も足も、あのままですが」
「美人になっただろう」
「はい。どこへも嫁がせる気はありません」
「大変だな。ナナリーは」
 やはり、兄から降りたのは苦笑だった。
 不安げに、ルルーシュは兄を見やる。
「私は、ナンバーズは今も嫌いだ。お前たちを、奪ったから」
「………私たちをエリア11へやったのは、皇帝です」
「たとえ誰も聞いていなかろうと、皇帝陛下の悪口が言える度胸が私にあると思うのか? お前は」
「………」
「こら。どうしてそこで沈黙する」
「………すみません」
 言いながらも、視線が確かに無理だと語っている。
 それに、仕方ない子供でも見るような視線が被さった。
「嗚呼、ずいぶんと忘れていたよ。ルルーシュ」
「は?」
「お前にも、ナンバーズの友達が出来たのだったね。……お前が生きようとした国を、私はこんなに騒がせてしまったのか」
「兄上……」
 死んだことにしていたことを、彼はなにも咎めずに。
 ただ、少しばかり遠い目をして頭を振るい、私は悪い兄だな。と告げた。
 そのまま、通信機器をいくらか操作しカメラに立つ。無論、ルルーシュを引かせて映らないようにすることも忘れない。
「全軍に告げる。毒ガスの中和剤を親衛隊に託す。一度全軍戻るように。バトレーは私の元へ。KMFのまま待機、民間人には手を出すな」
 バトレーを呼ぶことは仕方ないだろう? という言葉に、首肯した。
 文官である彼は、正直軍に明るくない。
 技術研究員でもあるバトレーは、彼の手ごまの中でもまだ軍に対して明るい人材だった。
「お前は、生きてこのエリア11にいる。そうだな?」
「はい。ナナリーと一緒に、います」
「いつか。こっそり手紙をおくれ。ユフィに届けてやらねば。コーネリア姉上や、ユフィであれば良いだろう?」
「………仕方ありませんね。でも、KMFを乗り付けてくるようならば止めてくださいよ? 兄上」
「ははっ。それはどうだろうな。姉上の苛烈さは、マリアンヌ様そっくりだから」
「………お変わりないようで」
「それは、もう。―――それと、ルルーシュ」
「……はい」
「いつか、成長したお前たちを描かせておくれ。本国にある一枚きりしか、お前たちの絵がない。それでは少々、寂しいからな」
「―――必ずとは、申し上げられません。ですが」
「ああ、いつかでかまわないよ」
 いつか。
 世界が静かになった時に、また来ます。
 それだけ言って、ルルーシュは闇へと走っていく。
 次いで聞こえるのが矢張り足音なのだから、自分はとことんにぶいのだとクロヴィスは肩を竦めた。
 勢いこんでくるバトレーを宥めながら、目を少しだけ伏せた。
 道楽、遊興にふけるのは、今日でお仕舞いだと感じながら。
 目指す治世は、きっとほかの兄弟ならば温いと評し、皇帝であれば唾棄するものだろう。
 けれど、今度こそ、正攻法でこの地を収めたかった。
 その結果、ニッポンとなってしまったとしても。
 もう、追い立てられるように生きてきた弟妹を悲しみの渦中に貶めたくなくて。



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 DSギアスの三週目ネタです。
 こんなんなったら即座にゲームは終わるが物凄い良かったなぁと思いましたのですよ!!(逃げた


枯れぬおもいで




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