顔をあげれば、笑顔の少女がいた。
 病弱で気弱なお嬢様、カレン・シュタットフェルト。
 しかしてその実態は。
「おはようございます、ゼロ!」



 熱烈なゼロの信奉者だった。



 彼女はこのクラブハウスに住んでいるわけでは、決してない。
 にもかかわらず、何故ここにいるのだろう。
 C.C.をさがすが見当たらない。道理で身体に妙な負荷がかかっていないわけだ。
 本来一人用のベッドなのだ。二人では、いくら自分も彼女も細身であろうと窮屈で仕方がない。
「ああ……。おはよう、カレン」
「朝食の準備は、出来ているそうですよ」
「………そうか」
 のそりと起きだす。
 昨日も黒の騎士団の活動があったはずなのに、彼女は何故こんなにも元気なのだろうか。
「それじゃあ私、咲世子さんの手伝いに行ってきますね」
「頼む……」
「はい! 頼まれました、ゼロ!!」
 元気溌剌な声で、頷かれる。
 何故か彼女の去っていく背に、スザクと同種のものが見えた気がした。
 即ち、茶色い犬尻尾。
 うっかりリアルに違和感がないと思ってしまい、ルルーシュはしばらくベッドの上で頭を抱えた。
 彼女に素性のひとつがバレてしまったことは、最早この際どうでも良いのである。
 信頼出来る少女だ。
 信頼に応えてくれている少女だ。
 与えられてばかりというのは、ルルーシュの主義に反する。
 だが、まさかここまでとは誰が予想しただろうか。
 否、誰も予想しなかったに違いあるまい。
 唯一、あの魔女ならばここまで見通していたかもしれないが言及するだけ無意味だ。なにせ相手は魔女なのだから。
 ここしばらくの日課として、ルルーシュ、ナナリーに加えカレンと共に朝食の席についている。
 時折C.C.も混じるが、それは本当に珍しい。
 カレンが朝食の席に一緒になることに、はじめは驚いていたナナリーであったが見知った相手であることも原因ですぐに慣れた。
 順応性が嫌でも高いのは、ランペルージ兄妹の共通項といえるだろう。
 三人で朝の短いひと時を食事と語らいにつかえば、あっという間に学校へ向かう時間だった。
 二時間目からのナナリーに短く別れを告げて、揃って玄関を出る。
「あの、ゼロ。御鞄お持ちいたしますが」
「カレン。私はそこまで非力ではないのだが」
「いえ、ですが……。ゼロに荷物を持たせっぱなしにするなんて」
 出来ない、と、しゅん、と俯くが、流石にルルーシュもこれは譲れなかった。
 本来がどうであれ、カレンは病弱なお嬢様だ。
 そんな彼女に荷物もちをさせているなんて、どれだけ傲岸不遜な人間だと思われかねない。
「いいさ。そんなことを気にするより、今日の放課後に意識を向けてくれ」
「白兜ですね……」
「ああ。まったく、忌々しい。アレを止める………、いや、倒せるのは、お前だけだからな。期待している」
「はい! 御期待に沿えるよう、私、がんばりますから!!」
 高らかに潤んだ瞳で頷かれ、周囲からなんだと視線を集める。
 慌てて、やめるように頼めばあたふたと彼女も謝った。
 美男美女の目立つ二人ではあるが、同時に少々変わっていたりすることも察せられている。
 オープンというより、暢気な校風にとことん感謝したいルルーシュだった。
 が、彼は忘れている。
 自分がトラブル吸引体質、厄介事寄せ付けマシン、面倒ごとの駆け込み寺であることを。
「―――!」
 背後からルルーシュに気づかれることなく、飛んできたのは、サッカーボール。
 放物線、角度、どれを取っても彼に激突するコースであることには変わりない。
 数歩動いた程度では、勢いよく飛んできたボールを避けられることは出来てもバウンドした二撃目で喰らう。
 ボールを見つけてからのカレンの行動は、素早かった。
 ルルーシュを勢いよく引っ張って位置を稼ぎ、地面を蹴って飛び上がる。
 既に下降を始めていたボールの上から拳を叩きつけ、そのまま真っ直ぐに地面へ押し付ける。
 一点に集中された力に抗しきれず、ボールはしゅるしゅると回転をしていたが、やがて止まった。
「………ご無事ですか?」
 ゼロ、とは、口の中で、瞳のなかでの呟きであったが、通じたことだろう。
「あ、あぁ。ありがとう、カレン……」
「いいえ! あなたのためですもの!!」
 にっこりと、笑顔で言われてはルルーシュも頷くしかない。
 なにせ、足元のサッカーボールを謝りながら取りにきた男子生徒たちから、畏怖の眼で見られようとも彼女は欠片も気にしていないのだから。
 そして彼は、また今朝みた幻覚を見た気がした。
 ぶんぶんと思い切りよく振られている、茶色い柴犬の尻尾を。



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 りくえすとあんけーとより、中原様に頂いたので書いてみました。
 毎日、ルル(ゼロ)を朝起こすところからカレンの一日がスタートしてしまえばいいと思います←


愛という名の忠誠心




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