後にルルーシュはこう語る。
―――全て魔女が悪いのだ、と。


 ここ数日、ルルーシュの体調は下り坂を転がり落ちていた。
 雪道ならば、巨大なスノーマンが出来ていたことだろう。
 それくらい彼の体調は悪かった。
 最悪といっても過言ではない。
 常日頃、体力が無いことを自覚しているルルーシュは体調管理に気をつけていた。
 睡眠は授業中にとり、忙しいテロ活動の際はガウェインに10秒チャージを持ち込んでエネルギーに変えている。
 が。
 ここにきて、魔女が文句をつけた。
 曰く、「自分が操縦している後ろでメシを食われるのは気分が悪い」
 我慢しろというわけにもいかず、それを控え始めたルルーシュは、すぐに後悔することになる。
 そもそも、食事をする暇がないのだ。
 玉城あたりならば食堂で悠然と食事をとるのだろうが、ルルーシュはそうはいかない。
 食事時であろうと、扇や藤堂、ディートハルトなどと共に次の攻略について話し合っている。
 その間彼らは食事をしながらだが、仮面をつけたままのルルーシュは食事にありつけない。
 自室に戻れば、現状の把握とまとまった情報からなる新たな作戦の立案、キョウトとの予算の話し合い、新しいグループの加入申請の 是非の最終判断。
 組織のトップとは、本当に忙しいものなのだ。
 そして、睡眠時間を削って学校に戻り授業は寝ても生徒会の仕事はある。
 食事と睡眠を天秤にかけると、ルルーシュは睡眠に傾く人間だった。
 結果。
 丸五日ほぼ食事無しという状況に、陥ってしまったのだ。
 足元がふわふわとおぼつかないが、今日は十日後に控えた大きな作戦について幹部との話し合いがある。
 さぼって咲世子の食事にありつきたかったが、そうもいかない。
 ため息をつきながら、作戦会議に没頭するしかなかった。
 会議も中盤、新しい制圧ポイントに話が移ろうか、という時に、それは起こった。
―――………くぅぅう。
 ざわついていたはずのフロア内が、いっせいに静まり返る。
 沈黙を割るように、再び音が鳴った。
―――……くぅ。
 今度こそ、静まり返った室内は凍りついた。
 何故この耳は、その小さな音を拾い上げてしまったのか。
 下位の団員たちは嘆き、初期メンバー達や幹部たちはなんともいえない顔で音の方向を見やる。
 そこには、仮面で表情は伺えないものの明らかに動揺しているゼロの姿。
「……な、なんか腹も減ったしつまめるものでも持ってくるか!」
 凍ってしまった空気を溶かそうとするように、扇が腰を上げる。
 が、そこに爆笑が響いた。
「だぁっははははははははは! お前も人間だったんだな! ゼロ!!」
 会議に参加すらしていない玉城が、大笑いをあげる。
 同席していたカレンに、殺気が宿るがあまりの場を読まない男に白けている周囲は気付かなかった。
「もうその仮面取っちまえばー? 腹鳴らすほど腹減らしてんなら、食えばいいじゃねぇかよ」
「空腹のあまりそうなってしまうほどの原因は、お前が前回の戦いで無頼を一機駄目にしたせいで予算をどうするかの最終チェックが面倒
になったせいでもあるんだが?」
 冷静に返すが、玉城は聞いていない。
 そして、どんなに冷然と返そうとつい先ほど腹の虫を鳴らした男の発言では威厳が皆無である。
「……会議を続けよう」
「いや、だがゼロ……」
 お腹、空いてるんだろう。と、言外に告げる扇を、後で食べるから問題ないと黙らせた。
「そんなこと言って、どうせ食べる暇を見つけられなくなるんだろう。どうせなら、食べればどうだ」
 言って来たのは白い拘束服に身を包んだ魔女で、腕には四箱ほどピザがある。
 大きさから、Mサイズとみた。
「またピザか」
「今回ばかりは恵んでやろう。優しい私に感謝することだな、ゼロ」
「ここで渡すな。後で部屋に帰ってから食べる」
「今食べないと、また失態を犯すことになるかもしれんぞ。いいから食べろ」
 見ていてやる。言う瞳が完全に嗤っているのだから、嫌がらせ以外のなにものでもない。
「生憎、口がスライドするようには出来ていないんでな」
「じゃあ脱げ」
 なに。
 思ったのは一瞬だった。
 空気の圧縮音が響くのと、膝の上にゼロの仮面が転がっていくこと、それに、自分の髪が引っ張られるようにして舞ったのがほぼ同時。
「―――!!」
 仮面が、外れたのだと気付いて声にもならぬ悲鳴をあげたのが、一刹那後のことである。
 だが、それは他の団員たちも同様だった。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「こ、子供?!」
「ルルーシュくん?!」
「素晴らしい! 混沌の権化たる黒の騎士団の首領が、まさかこんなに若く美しい少年であったとは!!」
「………君は」
「あらぁ。意外にいい男じゃなぁい。おねえさんが色々教えてあげましょぉか?」
 驚愕九割と意外と歓喜と明らかな揶揄を一割ずつの声が、フロアに響く。
「C.C.!!」
「なんだ。感謝しろよ、ゼロ。私のおかげで、これからはここで食べられるぞ」
 皮肉げに微笑み、ピザを一切れ口に運ぶ彼女は、正しく魔女そのものの表情である。
「なんであなたがここにいるのよ!」
「久しぶりだな、ルルーシュくん」
「ルルーシュ! それがあなたの本当のお名前なのですか?! ゼロ!!」
「え、ちょっと待ってくれ。もしかして、カレンと同じ歳だったりするのか………? 嘘だろう………?」
「若い肌ねぇ〜〜。羨ましいわ」
 パニックになりつつある現状に、突発事項に弱いルルーシュでさえも混乱している。
 ただ、嗚呼、十日後の作戦は必ず十四日後あたりにずれることになるだろうな、と。目の前の現実から、彼は必死で逃げていた。
 計算外があるとするのならば。
 実はこの件が意外と素早く受容されてしまい、作戦は十二日後と微妙な速さで行われることになり。
 タイミングを崩されたブリタニア軍の意表を突く形となり、傷も浅いまま目的を完遂出来たことだろうか。

 後に魔女はこう語る。
―――私のお陰だ。感謝は言葉よりピザで寄越せ。と。



***
 りくえすとあんけーとより、elifin様より頂いたので書いてみました。
 バレにばかり力がいってしまい、予想以上に長くなって申し訳ありません……orz


ビバピザ




ブラウザバックでお戻り下さい。