飽くほどに非難の声を聞き飽きた少年にとって。 その手は、リフレインに匹敵するほどの誘惑を秘めていた。 白い手が銃を握ることはない。 細まる瞳が侮蔑することはない。 薄い唇が罵倒をすることはない。 それらは、ある意味で当然であり。 ルルーシュの中では、当然などと欠片も言えないものだった。 裏切り者、そうと呼ばれるに相応しい行いをした自覚はあった。 だからこそ、全ての非難、罵声、罵倒、悪口雑言、誹謗、中傷、指弾、弾劾。 あらゆるものを受け入れた。 首領とは、責任を取る立場にあるものだ。 最後の最後に、首を差し出しほかの者たちを守るべきはずの存在だ。 末席に等しくとも皇族に名を連ねていた経験のある彼は、それをよく理解していた。 理解と行動が、著しく反してはいても。 だからこそ、彼は静かに当然のように反論もなく全ての罵りに身を晒していた。 「そんなの僕には、関係ないもん」 胸を貫くような笑顔に、ルルーシュは息を呑んだ。 目の前には、軍属の研究者。 いつかスザクを迎えにきた女性の上官であり、ミレイの婚約者でもあるという男。 まるで全てを知っているかのように、ティータイムに乱入してきた彼は告げた。 ひとり静かに耐えることでしか、明らかに出来なかったルルーシュに対しひどく静かに声をかける。 不意に伸ばされた手が、身構えるより早くやさしく髪を撫でていく。 「君には感謝しているんだよ、ゼロ。君のおかげで、僕のランスロットは生き生きしてる」 鋼の生き物には、相手がいなくては。 安いテロリストではなく、相手にもならない試作テスト機ではなく。 生き生きと動く、敵がいなければ。 「………ユーフェミア、を、」 「あぁうん、彼女殺しちゃったのは貴方ですけどね。あそこで君の行動が阻害されたら、僕のランスロットがお蔵入りにされちゃうかもしれな かったじゃない?」 「枢木スザクの、主を、だぞ………」 「だって僕の主じゃないし、守りきれなかったのも暴挙を止め切れなかったのも、君がなにをしたのかは知らないけど、実際出来なかった のは君だけの責任じゃないでしょ? いくら二人きりにして欲しいと言ったのは君でも、それを認めたのはユーフェミア第三皇女殿下 だ。なんでもかんでも責任引っかぶるのは良くないよ? トップはね、ずるくなきゃ。君のお兄様みたいに」 「ミ、ミレイや、スザクを騙して……」 「結果的に騙していたことになっただけで、黙っていたかったんだよねぇ? 枢木スザクには、やさしい世界にいて欲しくて。ミレイ君も、そう いう意味では君の日常の代表だったのかな? 優しいねぇ、余計な心配をかけたくなかっただなんて」 笑顔で、なにも悪くないのだと誘惑をしてくる。 必死に逃げていた言い訳を手に、優しくやさしく髪をなでてくる。 優しくやさしく、囁いてくる。 ―――全て、ゼロが悪いわけではないのだ、と。 それを信じるわけにはいかないのに、手を振り払えない理由をルルーシュは自覚していた。 「ありがとう、ゼロ」 誘惑はとてもきれいなもの、美味なものに姿を変えてやってくる。 時に、この世のなにより優しい姿で愛しげに髪を撫でる、この男のように。 *** リクエストアンケートより、きた様に頂いたもので書かせていただきました。 は、腹黒い優しさですがよろしかったでしょうか……orz |