雨音に顔をあげる。
 ぼんやりと日々は過ぎていく。時折、スザクの姿をニュースで見かけていた。
 きつい眼差しに、引き結ばれた唇。
 いかにもと言わんばかりの厳格な姿勢は、彼があれほど厭っていた父親の姿をどこか彷彿とさせる。
 日常が壊れた日。
 壊した手を、しげしげと眺めながらルルーシュは席を立った。
 不振がるシャーリーの視線と、どこへ行くのか問うリヴァルの声に同時に振り向いてサボると告げた。
 二度目の声がかかる前に、彼は教室からいなくなっていた。
 雨音が、続いている。
 日常が壊れた日。
 正確には日常を壊した日を、ルルーシュは忘れていない。
 冷えた指先に、体温が通っているような熱は微塵もなかった。
 代わりに、皮膚の感触だけが薄い唇にリアルだ。
「ルル兄様!」
 明るい声に振り向けば、そこに見知った姿。
 困ったような顔をして、それでも受け入れてしまうのは妹弟たちに弱い自覚があるためか。
「どうした。授業はもうはじまるぞ」
「それを仰るなら、ルル兄様こそ」
 授業はどうされたのですか? すべてわかっていて、問い掛けてくるのだからタチが悪いと肩を竦める。
 にこりと笑顔になって、ロロはルルーシュのすぐ後ろについた。
 半歩後ろなのは、兄に敬意を払っているからか。
 それとも、違う意味か。
 はかりかねる真意になぞ興味はなく、彼は歩を進めることに決めた。
 いつまでもここにいれば、教員たちに見つかって叱られることは必至だ。
 軽快な足音が、すぐ傍で鳴ることに対し意識はいかない。
 諦めは、彼が幼いころ無理にでも飲み込んだ感情のひとつである。
 嘆息をひとつ付こうと、呼気を故意に乱したところで。
―――キィ。
 ひとつ、金属が軋むような音をルルーシュの耳が拾い上げた。
 慌てて、そちらを見やる。
 が、そこにはなにもない。入り込んだ猫もいなければ、教員の姿もない。
 車椅子に乗った少女なぞ、いようはずも、ない。
 わかっているというのに、心臓が無様に乱れて仕様がない。
 あ、あ、と、短い声はいっそ哀れなほど震えている。
「―――ルル兄様?」
 そっと伺う声音に、弾かれたようにルルーシュは顔を向けた。
 血の気が引いていることが、自分でもわかった。
「……っ、すまない、ロロ」
 なんの話をしていたのか。
 話なぞなにもしていなかったのか。
 思い出すことも、出来ないほどに彼の心中は乱れていた。
 自覚出来るし、他者の内面を悟ることが得意な者でなくとも彼の狼狽振りは容易に知ることが出来るだろう。
 けれど、それらすべてを飲み下すように。
 ロロは、にっこりと笑った。
 在りし日の少女のように、穏やかな陽だまりを想起させるその笑顔。
「いいえ、お兄様」
 その瞬間。
 全館空調が整っているはずなのに、廊下の温度が一気に冷えていくのをルルーシュは確かに感じた。



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 R2予告を見ていたら、R2ネタが書けないか足掻いてみてしまいましたorz
 ロロは腹黒キレキャラだと思います………(遠


リヴァイアサンの頤




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