つまりは誰かが望んだ世界。


 つまりは誰かが拒んだ世界。



「仕合せに、なりたかったな」

 ぽつりと呟かれた言葉に、C.C.は金色の瞳を向けた。
 大半のナンバーズと呼ばれる彼らが、この言葉に眉を寄せるだろう。
 けれど、彼女は数少ない男の内面を知る者だった。
 それが僅かであろうと、『識っている』ことに代わりはあるまい。
 だから魔女は、口を噤んだままだった。
 そも、彼に平穏という言葉は無縁の存在であったのだ。
 特区の成立が高らかに宣言され、少なくともこのエリア11は慌しくその姿を変えようとしている。
 既に特区拡張の動きも、多く見られる。
 それは、先日助けた少年のことからも伺いしれる。
 世界は動いていた。
 エリア11に住む、弱者のために。
 ユーフェミアの言葉を借りるなら、ナナリーのために。
 歯車は錆音を立てながら、それでもガチガチと動き出している。
「なればいいだろう。これから」
 与えてやったのは、王の力なのだと。
 魔女が、平素と変わらぬ声で言えば冷徹に少年の姿をした魔王は足を組み替えた。
「王が個人の幸福を追求してどうする」
 あっさりと。
 それは、自身の永劫の幸福を否定するものだった。
「王は一人いればいいわけじゃない。土地が、力が、国民が、必要だろう。その幸福を追求するのが王であって―――」
 自身の幸福追求に乗り出す者なぞ、王ではない。
 きっぱりと、否定する。
「欲がないな」
「生き抜く欲以外は、どこかに置いてきたよ」
 それから、ブリタニアを壊す願い以外、というべきか。
 どちらにしろ、それはルルーシュを幸せにはしてくれないだろう。
 壊し、生き残り。
 その先に、彼の幸福があるだろうことを、C.C.は理解していた。
 だから。
「仕合せにしてやろうか」
 意図として揶揄の声音で、そう問いかける。
 一拍の後、ルルーシュはきれいな瞳を両方瞬かせて。
 口の端に嘲りを浮かべた。
「俺は幸福にはならないよ」
 決定事項のように、彼は言う。
「俺は、幸福には、ならない」
 言葉を繰り返す彼に、魔女はもういい。と頭を振った。
 それが通じたかは知らないが。
 お茶を入れてくると、優雅な所作で部屋を出た。
 自らの意思で、幸福を放棄した少年から。
 これ以上なにを奪いたいのだろうと。
 魔女は自問し、テレビの向こうで演説を続ける博愛の皇女に視線をやった。 


***
 ふと思ったのですが。
 特区、ナナリーのためと言ってるけどナナリーはこれ嬉しかったんだろうか。彼女の心情、一切出てきてないんですが。


ハッピィ・エンド




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