shine




 ぺし。と頭を撫で叩かれて、スザクは目を瞬いた。
 目の前にはセシルの姿。
 にこにこと微笑む彼女に、少しばかり躊躇いの態度を返す。
「ぼーっとしてるから。どうしたのかと思って。……大丈夫?」
「……あ、はい。緊張、少し、緊張していますけど」
「スザク君が男爵かぁ〜。感慨深いものがあるねぇ」
 ロイドの言葉に、あいまいな笑みを浮かべざるをえない。
 特区日本成立記念式典から一転、血の惨劇を経て、ゼロの死亡により終結した一連の騒動から既に数ヶ月。
 世界は落ち着きをなんとか取り戻しつつあり、エリア11も争う気力を根こそぎ奪われたように葬儀が如き静かさだった。
 本来の任務を終えた特派は、シュナイゼルと共に一度本国へ帰還。
 その際、ランスロットの性能を最大限に引き出せるただ一人のデヴァイサー枢木スザクもアヴァロンにて同道した。
 実力国家ブリタニアの皇帝は、血塗れと卑下されたユーフェミアの騎士に対しひどく興味をもったようだった。
 ゼロを殺したこと。
 結果的に助けられなかったとしてもテロリストから、主を救い出そうとしたこと。
 悲劇の英雄として、祭り上げるためなのか、皇帝は枢木スザクに爵位を与えた。
 男爵という金銭でも用意出来てしまう地位だが、皇帝直々に賜る爵位ならば話は別だろう。
 所領その他、説明は受けたけれどスザクの耳にはわからず、察したのかシュナイゼルが苦笑交じりに自分のほうで処理しておこうと買って出てくれた。
 貴族。
 一兵卒からはじまり、デヴァイサーになり、騎士になり、貴族にまでなった。
 内側から変えていくには、まだ力は足りないかもしれない。
 けれど、一代限りで終わる騎士侯ではなく貴族の地位というのは、スザクの夢にいくつものコマを進めるだけの輝きがあった。
「セシルさん」
「なぁに?」
「後悔、していません。僕は」
 ゼロを殺したのは正しかった。
 なにも知らずにいた少女を救い出したのは正しかった。
 世界を静かにさせたのは正しかった。
 自分の行動は正しかった。
 正しかったのだから、後悔なんて必要ない。
 真っ直ぐに、彼女を見つめれば。
 そう、とだけ、微笑まれる。
 スザクは首肯し、息をひとつ吐く。
「ゼロが、悪い。でももう、ゼロはいない。諸悪の根源は、もう、死んだ」
 殺したから。
 だからいない。
 主を殺した卑怯で卑劣な男は、もうこの世にはいない。
 だから、世界は正しく回転しはじめている。
 ゆっくり、ゆっくり。
 正しい世界を見回すように、そうは広くない控え室を見回して微笑む。
 室内にいるのは、後見人となってくれたロイドと、セシルのみ。
 けれど、特派に戻れば整備班やほかにも多くの人たちが自身を認めてくれることをスザクはもう知っていた。
 だから彼の価値観は揺らがない。
 彼が、間違いで。だから世界から拒絶され、裏切られて。
 自分が、正しくて。だから世界に受け入れられ、認められる。
 嗚呼! なんて美しい世界なのだろう。
 やさしい世界を作れば、ナナリーの心も晴れるだろう。
 ミレイの憂いも消えるだろう。
 その時には、彼女たちも満面の笑顔を受け入れてくれるだろう。
 スザクの世界は、輝きに満ちていた。



***
 ユフィの騎士として世界に認められたら、貴族階級くらい寄越してくるかな。と。
 実力主義国家ブリタニアだし。






ブラウザバックでお戻り下さい。