報告書を机に放り出し、コーネリアは肘をついた。 嘆息が漏れるのも仕方が無い。 血塗れのユーフェミア。 その名は、世界に余すことなく伝えられた。 早い段階で情報規制を敷くことが出来なかった、ブリタニア側にミスがある。 姉であり庇護していたコーネリアにも、ユーフェミアの責任はかかってきていた。 むしろ、コーネリアは日頃ユーフェミアに関しての全責任を自身が負うことを豪語していたのだ。 いくら妹姫が皇族の籍を抜けたからとはいえ、責任の所在を有耶無耶には出来ない。 それは彼女が妹を守る意思であり、今も覆す気はないけれど。 「………少しお休みになられてはいかがですか」 グラストンナイツの手も借りられている。 休むことのない主に、ギルフォードは遠まわしながら休憩を勧めた。 けれど、小さく笑んで彼女は首を横にする。 「これは私が負うべきことだ。たとえユフィが奴の卑劣な罠に陥れられようと、な」 奴、ゼロ。忌まわしき、世界を混乱に貶めた張本人。 名を呼ぶことさえ厭わしげにしながら、休むわけにはいかないのだと拒絶を返された。 そうと言われれば、それ以上言葉を紡げるはずもない。 騎士は、出来ることをと自分の手で処理しきれるものを探す。 ふと。 不意に止まった手にコーネリアが気づいたのか、珍しいと言いたげに視線を向けた。 「あ、いえ………枢木スザクが」 「仕方あるまい。兄上直属の部署に所属し、なおかつあのゼロを殺したというのだろう? おまけに、未確認情報だがナナリーさえ助け出したという。 ふっ、これでルルーシュさえも助けだせていたら、私でなくとも奴に貴族階級をと望む声をあげるだろうさ」 もしルルーシュが皇族として生きていたら、序列の上位に彼が加わっていただろうことを彼女は確信していた。 更には、ゼロという存在など生み出させなかったことも。 だからこそ、彼女は最早失われているという頭脳を惜しんだ。 現在、ナナリーが後回しにされているのは彼女がどうあっても皇族の継承戦争に参戦出来ないことが一因だ。 おまけに、コーネリアがいくらそうとしたくとも彼女にはすべき職務があり手を動かすことが出来ない。 妹を守るために必要だった地位は、気づけば二重三重に彼女を絡めとっている。 「ギルフォード。来週の議会では、枢木も出るのだったな」 「はい。シュナイゼル殿下の護衛を主任務とし、あとは特派の第七世代KMF披露でのデヴァイサーとしてのようですが」 「丁度良い。空いた時間、私の執務室に呼びつけておけ。報道陣に囲まれるか、私と会うかのどちらかならば、選びようもあるまい」 それが、果たして血塗れのユフィに従っていた騎士としてのマイクなのか。 それとも、世界を混乱に叩き込もうとしたテロリストを殺害した英雄としてのマイクなのか。 どちらかは、わからなかったが。 「嗚呼、ないもの強請りとはわかっていても、ルルーシュが生きていてくれたならばと思うよ。あの子の優秀さが、今はこんなにも羨ましい。 マリアンヌ様の才を受け継がず、と、あれは嘆いていたがこんな処理はきっと今の私より早いだろう。私は戦場に出るばかりで、文官としての技量 は欠片も無いからな」 「そのように仰られて……。紅茶を淹れてくるように言ってきましょう」 失礼します。 そう言って、一礼し出て行く騎士を視線でだけ追う。 扉が閉まる音を聞いて、そっと引き出しから写真たてを取り出した。 皇族を廃されたとはいえ、皇族に席を置いていたことがある身でありながらあの惨状。 故に、ユーフェミアの肖像画などは皇宮からすべて処分されていた。 コーネリアの私物として残しておけたものも、数少ない。 これは、そんな手を逃れたもののひとつだ。 「なぁ、ユフィ。もしもルルーシュがいて、ナナリーがいて、クロヴィスもいて。みんなで、アリエスの離宮でお茶を出来たら、どれほど楽しかったことだろうな」 かなわぬ願いを口にする。 花のような妹は、怨嗟と嘲弄以外人の口に上ることはなく。 彼女自身、ともすれば地位を追われる身の上だ。 だから、それはかなわぬ夢物語にもならないこと。 けれど言ってしまうのは。 何故なのだろうと、冷たい硝子を手袋が一撫でした。 *** 出すかどうかは兎も角、現在の皇族兄妹の現状はこんな感じです。 スザクは、生涯ユフィの騎士であろうとするけれど特派的にデヴァイサーだしー。みたいな。 |