ワンサイド・ゲーム




 日本は、ブリタニアと戦争をして完全に負けた。
 そうして、名前と誇りを奪われエリア11と呼ばれることになった。
 けれど、スザクにしてみればあれは戦争ではない。
 ゲームだ。
 一方的な侵略、略奪。
 まるでそれがそうと決まっている、ゲームのように。
 拠点を破壊し、部隊を撃破する。そういう、ゲームのように。
 日本は戦争に負けた。
 否、あれは戦争ですらなかった。
 対等に争うということが、出来なかったのだから。
 戦争ですらない。
 あれはやはり、ゲームだったのだ。
「君、本当にこういうの得意だよね」
「―――うん?」
 言われて、チェスの傍ら読んでいた本から顔をあげたルルーシュが首を傾けた。
 肘をついて斜に構えたようにする彼は、とても自然な姿である。
 王のようなだと思っていれば、動くのは黒のキング。
「なんで僕をいつも白にするかな」
「特攻バカのお前には、丁度良いだろ。先手のほうが」
「バカ、って。君ねぇ」
「なんだ? なにか反論でもあるのか」
 あるなら言ってみろ、聞いてやる。
 言いながら、動く白い駒を見やり不機嫌そうな表情になった。
 どうやら、また置き間違えたらしい。
「お前は、俺に駒を全部とって貰いたいのか? ショーギは自軍に使えるんだろうが、チェスは取ったら取りっぱなしだぞ」
「そうなんだよね。国民性が出てるというか」
「ふん。ショーギなら捕虜、チェスなら殺す、とか?」
「趣味悪いよ、そうやって言うの」
「今更。とりあえずそこはやめておけ。最高十六手まで持つゲームが、今ので四手までになった」
「え、嘘?!」
「本当だ。ちなみに、少しでも粘りたいならナイトをEの4にやれ。そうしないと、道が手詰まりになる」
「ルルーシュ! 僕にも考えってものがね?!」
「その考え、全部メモに起こしてお前に渡してやってもいいんだぞ」
 あっさりと言い切られ、スザクは押し黙った。
 彼ならば出来る。
 そんな確信だけが、胸にはっきりと宿る。
「幸い持ち時間無制限なんだ。いくらでも迷ってろ。せめて、この本を読み終わるくらいまでにはな」
「……努力はするよ」
「結果を出せ、職業軍人」
 鼻であしらうように言われ、短く返事をすることも出来ない。
 白と黒に色分けされた盤上は絶望的で、もはや逆転は不可能。
 ルルーシュのそばには、白い駒がいくつも転がされていた。
 倒れたポーンが、人に見えたのはどういう理屈か。
「ルルーシュ」
「うん?」
「君がこういうゲームに強いのは、お国柄? ほら、リヴァルも上手、って聞いたし」
「それはアイツのバイト先のバーが、チェスも置いていて相手がいない場合打つからだ。まぁ、アッシュフォードは名門の子息令嬢が通う学校 だからな。社交界では、チェスをはじめとしたボードゲームなんかも出来ないとおかしいんだよ。社交界っていうのは、なにもパーティーに出ている だけじゃない。男女別れてのサロンでは刺繍の見せ合いもあるし、チェスを打つことも、軽くポーカーやブラックジャックをしたりもする。そういう場に 出て、兄弟や親の影に隠れないように自然に振舞うことが求められるんだ。社交界で笑いものにされてみろ。次のシーズンには顔を出せない。そ れが恥を増やしていく。泥沼だ」
「大変なんだ」
「お前が知らないところで、いろいろと影は動くもんさ。スザク、さっきよりは良い手だが、甘い。最善じゃないな。それでいいのか」
「え、嘘、だって」
「ふん……十二手、か。惜しい」
「〜〜〜。………いいよ、それで」
「ほう?」
「自分が最善だと信じた手だからね。これで、粘ってみる」
「十三手過ぎたら、なんでも好きなやつ奢ってやるよ」
 言って、黒のビショップが軽やかに舞った。
 結果はワンサイド・ゲーム。
 それは、ブリタニアが日本を手に入れた時よりも鮮やかだった。



***
 当然の結果ですけどね。





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