幾度となく幻視する、それは。 ―――僕を救おうとしてくれているみたいだ。 そう思わずにはいられないほど。 自分が落ち込んだ時に限って、やさしく伸ばされている。 何処かで自分のことを見ていてくれているのだろうか。 見張られている、というよりも、見守られている、と思ってしまうのは。 仕方ないことなのかもしれない。 「スザク君? どうかした?」 ファイルをチェックしながら、セシルが気遣わしげに言う。 不意に彼女の手を見つめてしまった。 視線に気づいたからこその言葉だったのか。思って、スザクは首を横に振った。 なんでもないのだと示し、そして同時に気づく。 彼女ではない。 何故だろう。彼女はもう、割と、自分に近いところにいるのに。 自分の状況が、わかるところにいるのに。 「え〜〜〜? なにスザク君。調子悪いの? 大丈夫かなぁ、ランスロット」 「そっちですか。ロイドさん?! ちゃんとデヴァイサーの心配してください!!」 「だって、それは自己管理でどうにかなる問題だろう? 僕が口出せるのなんて、高が知れてるし」 「……そうかもしれませんけど。それにしたって……。そうだわスザク君! 明日、お弁当を作って」 「大丈夫ですよ、セシルさん」 笑顔を向ける。 こうしてバイオハザードは阻止された。 心配がる彼女に、首を再度振って笑ってみせる。 大丈夫だと言い続けていれば、本当になるのだと。 知ったのは、もしかしたらもうずっと前のことなのかもしれない。 ようやく見つけた時間、急いで制服に着替えて学校に向かう。 もう授業は終わっていたが、それでも生徒会に出れば友人たちがいてくれた。 笑いながら書類整理と貸し出し許可書を作りながら、手元に眼をやってしまう。 シャーリーは違うだろう。 彼女の手は似ていたけれど、体育会系特有の逞しさを指先からも感じられた。 もっと、しなやかな手だった。 ニーナも違うだろう。 なにもしていない手ではなかったように、思われる。 もっと、力にあふれていた。 リヴァルも違うだろう。 彼はバイクを弄ることもやっていて、それ故実はかなりしっかりした手をしている。 もっと、細かった。 ミレイかとも思ったが、彼女でもない。 もっと、白かった。 誰だろう。 伸ばされる手が、救い上げようとしてくれているようで。 手を必死に伸ばして、指先がひくひくと動いていた。 手をとれと、必死に叫んでくれているようで。 動けない自分が、憎らしかった。 あれは、いったい。 「スザク?」 「え?」 「どうされました? スザクさん」 「あ……。ううん。なんでもないよ」 「軍のお仕事、忙しいんですか……?」 「大丈夫。技術部だから」 「そうは言っても、テロが最近盛んだからな。KMFの調整とかで、忙しいんじゃないか? っていうより、技術方面に知識のないお前がよく 役に立ててるな」 「それ、どういうことかな。ルルーシュ」 「感心してるのさ」 「まぁ。お兄様ったら」 穏やかな笑いに、手の存在が消えていく。 気にしなくても、良いかもしれない。 だって、自分は此処にいるだけでこんなに仕合せなのだから。 あんな幻、気にする必要ないのかもしれない。 そう思っていた、ある日。 そう思っていた、矢先。 「わたくしを好きになりなさい!!」 伸ばされた手を、取る。 細く、しなやかで、きめ細かい白い肌の、きれいな、手。 嗚呼彼女だったのだ。 スザクはうれしくなって、顔を笑みにした。 彼女がずっと、自分を助けようとしてくれていたのだと、思って。 うれしくて。 笑顔に、なった。 その裏で、誰かが慟哭を上げたことに気づかないで。 *** 気づけというのは無理のある話ですが、スザクは自分が誰も傷つけずに今まで過ごしていたと思っているのでしょうか。 ナナリーとルルーシュの手を気にしなかったのは、無意識です。 そんなところで比較せずとも、彼らは自分を助けて、また助けられていてくれる存在だと思い込んでいたために。(スザクの欺瞞ってそこら 辺だと思うのですがどうでしょう……。 |