夜雀が鳴くだけ




 それは、偽らざる本心なのだろう。
 確信させるのに、共に居た年月が後押しをする。
 それは、心の底からの願いなのだろう。
 断言という希望系。
 それが、彼の望みというのなら。
 嗚呼、膝を、つきたくて、仕方がない。
「世界を手に入れられる?」
「そうだ」
「わかっておられるんですか? それは」
「皇帝になると、いうことだな」
 言葉に、YESと頷いた。
 けれどルルーシュは、別に、と、苦笑を漏らす。
「別に、世界征服がしたいわけじゃないさ。馬鹿馬鹿しい。―――ただ」
 やさしい世界が欲しい。
 ナナリーやユフィが、笑っている世界。
 心の底から、喜ぶ世界。
 涙の少ない世界。
 争いの少ない世界。
 やさしい、世界。
 優しい世界が、ただ、欲しい。
 ルルーシュは、不意に背もたれに身体を預けた。
「捨てられた皇位が、惜しまれますね」
「そのためのガウェインだ」
「……と、おっしゃいますと?」
「あの男はな。放ってなどおかない。俺がガウェインを手に入れた時点で、俺が嫌だと言っても皇族に引きずり戻す。俺の意思など、関係なしに。 そうして、俺を使うんだ、文字通り、道具みたいに。ブリタニアの為に働け、と―――!」
 そのために生かしておいてやったと、言うだろう。
 そのために好きにさせてやっていたと、言うだろう。
 予測はあまりに容易で、吐き気さえする。
「だから戻ってやるのさ。あの首を掻っ切るために。俺の望む世界を得るために」
「………捨てたのは、嘘だったと?」
「嘘じゃない。七年前の、母さんが殺された時の俺は、ナナリーがいればどうでもよかった。生きられれば、なんだってかまわなかった。けれど、 七年だ。七年。なぁ、ロイド。七年、なにがこのブリタニアで変わった? 俺のように、皇位を捨てられずに他者を踏みにじる者や、唯々諾々と皇帝 に従うものばかりだ。駄目なんだ、それじゃあ。こんなんじゃ、やさしい世界は訪れない。箱庭で満足していられれば良かった。復讐なんて、考え る気はない。俺はただ、やさしい世界が欲しくて―――その為なら、世界を変えることさえ厭わない覚悟が出来ただけなんだ」
 この、七年の間に。
 出来たのは、そんな覚悟ただ一つ。
 何度も踏鞴を踏んで、何度も躊躇って、何度も諦め掛けた。
 それでも。
 手放せなかった―――願い。
「それをボクに言ったのは、どうしてです?」
「お前が一番、この国で冷めているから。ランスロットやガウェインの研究だけで、満足してしまっているから」
「ほかの研究員も、そんなもんでしょう?」
「支配に慣れている人間に、用は無い。嗚呼、セシルさんやラクシャータにも、無論話はするさ。けれど、ロイド。まずはお前からだ」
「―――ボクに、シュナイゼル殿下を裏切れと?」
「兄上から人材一人奪えないで、なにが世界を変える、だ?」
 不遜な言葉に、けれどロイドは笑い出しそうだった。
 嗚呼、なんて。
 なんて、傲慢で傍若で。
 優しくて甘くて青くて愚かな、ひとなのだろう。
「いいですよ」
「………また、あっさり答えたものだな。お前も」
「あはっ。だって、考えるまでもないでしょう? ルルーシュ殿下」
 王になる貴方が、見てみたいのだもの。
 躊躇うことなく口にする男に、ルルーシュがぴくりと柳眉を動かした。
「自ら必ず初手を動くキングの後に、ついていくのも悪くない。ビショップくらいには、なりますよ。ボクは」
「ナイトではないのか」
「おやぁ? 騎士にしていただけるんで?」
「俺が皇族に返り咲いた、その時には」
「楽しみにしておりますよ。我が君」
 もっとも、そんな餌がなくたって文句などないのだけれど。
 けれど、そう。
 一番傍近くにいられるのが騎士ならば、そのほうが良いに決まっている。
「ねぇ、殿下。ボク、ね―――」
 笑顔で口にする、その言葉よ。
 どうか、呪いとなって彼を戒め、縛り付ければ良い。
 どこへも帰りつけなくなるほどに、強い呪いとなれば良い。
 願いだけが、すべてを覆いつくせば良い。



***
 ラスト一話。駆け足なのは気のせいです。(ごめんなさいごめんなさいごめんなさいry





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