全ては夢の外での出来事




「あら」
 顔を上げて、微笑んだ。
 だから女も、微笑み返す。
 傍へ寄っても? 恐る恐る言う女に、彼女は勿論と笑顔で頷いた。
 女は、自分の呪われた身を知っている。
 それは病ではない。
 呪いだ。
 だから、空気感染も接触感染もありえないというのに、極端に他者へ近づくことを恐れていた。
 自分の呪われた宿業が、相手に移ってしまえばどうしよう。
 そんなことを、恐れて。
「今眠ったところなの」
「小さいな」
「まだ三歳だもの」
 ねぇ?
 微笑みかけて、擽る。
 柔らかい四肢を、母に預けて安心しきったように眠っていた。
 これが十年か十五年も経てば、立派に大きくなるのを女は知っていた。
 生命の神秘というか。
 凄いものだと、思う。
 手に、触れようと指を伸ばす。
 震える指は、なにを恐れてのものなのだろう。
 本当のところは、もう女もきっとわからない。
 ただ、恐れる記憶ばかりが強くて。恐れるだけなのだろうか。
「………マリアンヌ」
「なに?」
「考え直さないか」
「………」
「なぁ、考え直さないか」
 顔をあげた女の金の瞳は、必死だった。
 必死で、彼女を止めようとしていた。
 何故なら、まだ間に合うから。
 時間は有限ではなく、流れ行くものだ。
 けれど今なら。
 其の流れを、変えることが可能だろう。
 だってまだ、こんなに小さな子どもがいる。絶望しかない世界を、態々見せなければならない理由などないではないか。
「考え直せ、マリアンヌ。私はいいんだ。私はもう、諦めてる。だが………」
「×××××」
「ずるい………。其方で呼ばれたら、私はもう。なにもいえないじゃないか………」
 諦めた瞳で、視線を落とす。
 マリアンヌは笑顔で、女は諦念の色を浮かべている。
 その対比が、いっそ見事の一言だろう。
「ねぇ、C.C.」
「………ん?」
「この子を、お願いね」
「マリアンヌ………」
「起きたら、ちゃんとご挨拶するのよ? ルルーシュ」
 眠ったままの少年に、そっと母親は囁きかける。
 結局、女が少年に触れることはなかった。
 これからいくらだって、そうなることはわかっていたから。
 だからまだ、その呪いを移すまいと。
 女が少年の眼に触れることは、なかった。



***
 アリエスの離宮での一幕。のように。
 C.C.とマリアンヌ様の関係が気になります。





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