仕方ない。 そういわんばかりの沈黙が、けれどルルーシュには痛かった。 言いたいことがあるならば言え、とは、言えない。 気遣われているのは、此方であることを彼は理解している。 雰囲気を読む能力が、こんなところまで遺憾なく発揮されずとも。と思ったけれど、無意味だ。 嗚呼。 嘆息が再度男から漏れた。 黒いパイロットスーツの襟元を緩めて、男のほうを伺う。 ぽちぽちと拗ねるようにキィを叩いては、再度ため息が漏れた。 「………悪かったな」 「何がですかぁ?」 「俺が、全然デヴァイサーに向いていなくて」 「あ〜あ。いえ、別にいいですよぉ。ランスロット、本当に色々調整が微妙なんで。ヒト選んじゃうんですよねぇ」 「―――違うだろう」 「はいぃ?」 「ランスロットが選んだんじゃない。俺が、基準に満たなかった」 自身が選ばれなかったのだと。 言った後に、自身の言葉に傷つく顔をする少年へ、ロイドはフォローの言葉をかけなかった。 観点を変えれば、確かにそうだ。 ランスロットは、ルルーシュを選ばなかった。 自身に乗るに相応しいデヴァイサーとして、求めなかった。 ロイドは、ランスロット寄りの人間である。 否定をするはずもなく、ただ曖昧に返すのみに終えた。 「あ〜あ〜〜。どこにいるのかなー、僕のランスロットを動かすぱぁつ〜〜〜〜〜!!」 軍の協力はなかなか当てにならない。 特派は、その異質ゆえに軍内部から嫌われている。 ゆえにルルーシュを乗せられる時は、もしやと思ったのだ。 まったく違う血を入れたら、望む通りに動いてくれるのではと。 結果は、惨敗に終わったけれど。 「悪かったな」 「いえ、だからいいですってぇ。それよりルルーシュ元殿下ぁ」 「なんだ?」 「二人乗りってどう思います?」 「……無駄に大きくなりすぎる、行動が愚鈍になる、それこそヴァリスで狙い撃ちにされて終わる気がするが?」 「ヴァリスとかに狙い撃ちにされる対策は、エネルギーシールドの全面展開か、じゃなかったらラクシャータが開発中のゲフィオンディスター バーでなんとかなるかなぁ? って思うんですけど」 「………ラクシャータがなんの開発もしているかさえ、俺は知らないんだが」 「あっは〜。ですよねぇ。すみません〜。………嗚呼、でも元殿下ぁ」 「なんだ」 「前線出られるより、後ろで踏ん反り返って指示出してるほうが、向いてます。その辺やっぱり、あの人の弟ですねぇ」 コーネリア殿下とは大違い! 笑うように言う男へ、それはそうだと大してダメージもなく返した。 姉でありブリタニアの魔女とさえ異名をとる彼女のほうが、皇族にあって異質なのだ。 もっとも、何故そうしているのか理由を知っているだけに、他の皇族や貴族たちと一緒になって彼女を揶揄する気はこれっぽっちもないが。 「やっぱり、僕は僕でランスロットのパーツ探し頑張るしかないのかなぁ。あ〜、今すぐ降ってこないかなぁ、ランスロットのデヴァイサー」 「………生体パーツが降ってきたら、俺は兄上にご報告するぞ。流石に」 「え〜。でも、探すのにも時間とお金がかかるんですよ? それだったら、適当に降ってきてくれたほうがありがたくありません?」 「適当に降ってきた奴程度に、ランスロットの性能が完全に引き出せるとは思えないが」 莫迦を言っていないで、今日のテストの報告書を作成しろ。 呆れるようにしていたルルーシュが、ふと見れば。 満面の笑みの、ロイドがいた。 思わず、一歩たじろぐ。 「そーうーでーすーよーねぇえええええええええ!! 僕の! ランスロットが!! そぉんなそんじょそこらの人に動かせるとは到底思え ませんしぃ! 嗚呼! 元殿下はやっぱりランスロットの近くに触れただけのことはある! 僕のランスロットを理解してくれるなんてぇ!!」 いきなりテンションがハイにまで上がったロイドに、更に一歩ルルーシュは引いた。 「理解というほどではないだろう。ロイド」 「そんなことないですよ! 純潔派の方々は、適当なので動かして使えれば良い、とか言い出しますし」 「………それはそれで、ランスロットのアイデンティティを見事に無視しているな」 「えぇ! 理解のある方に回り逢えて、感謝の極みですよ! シュナイゼル殿下にも、お礼言っておこう〜っと」 「………ほどほどに」 そろそろと動いて、エア・ドアの傍に立つ。 相手はテンション高くランスロットについて語っているし、今なら逃げられる。 振り向いて一秒、ドアが開いて閉じてロックまでに最低十秒。 視界から消えるまでなら、すぐの角を曲がれば八秒はかからない。 いける!! だが、現実は往々にして計算どおりにはいかず。 振り向いた矢先に、エア・ドアが開いた。 当然、ルルーシュではない。 「ロ・イ・ド・さん?」 そこに、笑顔の女性がいた。 「あれぇ? セシルくん。どうしたの?」 「どうしたのじゃありません! ランスロットのデヴァイサー実験に、勝手にルルーシュ君を使ったんですって?!」 「うん」 「うんじゃありません、うん。じゃ!! どうしてそう勝手をなさるんですか! ちゃんとルルーシュ君に誓約書書いてもらいました?!」 「あ、忘れてた」 けろりと一言。 それに、セシルの笑顔は余計深まった。 流石に身の危険を感じ取ったか、眼鏡の奥が泳いでいる。 だがもう遅い。 「ロイドさん?」 「………ハイ」 「書類と向き合う前に、人との健全な交渉の仕方を教えて差し上げますね」 「結構です」 「駄目です」 コンマの却下だった。 ずるずると、女性の腕力とは思えない力でセシルに引き摺られていく。 「あ、ルルーシュ君。今日はもうお終いだから、帰って大丈夫、って、皆さんに伝えておいて?」 「………わかりました」 人の目なく、なにをするのか。 恐ろしくて、ルルーシュは追求出来なかった。 翌日、ロイドの腫れた頬と痣とを見て、自分の判断が正しかったことを少年は悟った。 *** ラクシャータはロイドさん笑いにきます。そしてまた喧嘩して、今度は二人で怒られる。と。 |