その時の彼といえば。 とてもとても、退屈で。 とてもとても、怠惰で。 秘書官である彼女には常に叱られ、同僚である彼女には常に笑われ。 過不足なく、生きていたのだけれど。 世界はひどく曖昧で。 世界はひどく混沌で。 そんな、ローティーンの子どもじゃあないけれど。 それにしたって、いくらなんでもこの。 有り余る時間と、活用できない環境は。ないんじゃあないかと。 只管に、思い悩んでいた。 退屈が悪いとは、言わない。 だって退屈も愛すべきものだろう。 何故なら、その退屈さえ甘受出来ないものがいることを彼はよく知っていた。 彼がこの退屈を大いに満喫出来るのは、彼がブリタニア人であり、その中でも伯爵位であるからに他ならない。 これをいらないと言ってしまえるほど、デリカシーに欠けているわけではなかった。 退屈は一応愛しい。 大事だし、大切だろう。 だが、物には限度や程度というものが存在する。 体重をかけて、椅子の上でくるりと回った。 現在、人間の天才以上のスピードでもって演算処理をしてくれているコンピューターが愛おしく思えてくる。 プログラムを組んだのはロイド自身だが、実際働いてくれているのは0と1達であろう。 なんにせよ、演算が終わるまでロイドの仕事は休止だった。 かといってラクシャータの手伝いをする気は、毛頭無い。 彼女とは根本的に馬が合わない。 お互い、根っからの研究者であり、KMFの開発者だった。 要は子どもの意地の張り合いである。 相手にだけは、絶対に負けないようなシステムを構築し、この世に生み出してみせる。 メラメラと燃える様子に、双方のフォローが主業務のセシルは何度嘆息を落としたか知れない。 空を掴むべく、手を伸ばした。 伸ばした腕、思い切り広げた手の平の向こうにあるのは、見慣れた天井。それ以外の何者でもない。 握り締める。 カラのまま掴んだ手に、なにかが残っているはずもなく。 ロイドは、空っぽの手を振るった。 眼精疲労からの頭痛の予兆を感じ、眼鏡を外し目頭を軽く揉む。 それだけで、随分と気が抜けていくようだった。 「ロイドさん。大丈夫ですか?」 「へ? あ〜あ、うん」 「もうずっとお休みになられていませんし、今日はもうお帰りになられたら如何です? こっちの計算が終わるまで、動けませんし」 セシルの言葉に、生返事を返す。 そうしたいのは山々だが、これが駄目ならまたなにか面白いことを探さねばならなくなる。 第七世代KMF開発が、ロイドの趣味の延長線上にある研究課題だった。 全く新しい構造理念から生み出されるそれは、ブラックボックスがとにかく多い。 おかげさまで、こうして結果が出るかでないかわからない(一応、仮説では出るのだけれど。覆されるのなんて珍しくない)ものでもそれなりに真剣に向き合って待たねばならない。 もうちょっと残っている、といえば、ロイドの補佐だけが仕事ではない彼女は白衣をはためかせて別のセクションへ小走りに歩いていった。 恐らく、ラクシャータのほうだろう。 そういえば彼女も煮詰まっていると耳にしたが、どうなのだろう。 詳しい結果に、興味などない。 「嗚呼、退屈だよう〜」 ねぇZ-01.キミもそうだろう? 未だ名称さえついていないナンバーを無粋に呼んで、金属の塊へ視線を落とす。 退屈だ。 退屈だ、退屈。とても。 この平穏が、壊れろなんて望まない。 だから、この平穏のまま、楽しいことが早く起きないかと、基本的に動かない直球で研究者の男は他力本願なことを呟いた。 退屈で死んでしまう前に。 *** シュナイゼルの前に、ロイドさんが出張ってきて……! 未だ逢わぬ二人、ブリタニア側に三人の研究者たち。つ、次こそ……!! |